先日、「森林直販ツアー」と銘打って、大分県の佐伯広域森林組合を訪れるツアーを開催した。定員は20名としたが、参加希望者が相次ぎ、最終的には26名もの方に参加頂いた。通常の視察は組合本所や工場を巡って説明を聞くのが一般的だが、今回はそれだけでなく、座学では「佐伯型循環林業」、「製材品1m3あたりの再造林費用の分析」、「新工場の自力建設に取り組んだ経緯」を佐伯の皆様に説明頂き、私からは「建築AIが拓く森林直販の可能性」についてお話させて頂いた。参加者にはそれらを踏まえた上で、2009年に稼働した大型製材工場、この秋に竣工し試験運転中の2×4用材新工場、宇目共販所、チップ工場等を見て頂きたかったからだ。
皆様の視察中の反応も、懇親会場で聞いた感想も、多くは「これが本当に森林組合なのか」という驚きに満ちたものだった。佐伯に視察に訪れる人の多くは、現在の規模の大きさに目を奪われ、すごいけど自分達とはあまりにも違う、参考になる部分は少ないと感じてしまいがちだ。私は過去にそうした感想に何度も接していたので、それでは遠くから来る意味が無いと思い、配布した事前資料の中で佐伯の辿った歩みについて触れ、併せてこう強調した。「見るべきものは、規模ではなく挑戦する姿勢だ」と。その点は、佐伯の皆様が語って下さった、過去の失敗や内部対立の苦労、それでも挑み続けた歴史を通して、参加者の皆様にしっかりご理解頂けたのではないかと思う。私が説明した内容も、これからは規模を追う必要が無く、AIを活用して地域内の小さなサプライチェーンを実現しようというものだ。
今回の視察先の中で、参加者が最も深い関心を寄せ、様々な質問が飛び交ったのは、二日目に訪れた苗木センターだった。廃校になった小学校の体育館を資材置き場とし、その奥に6~7棟のビニールハウスが立ち並ぶ。中では緑色や、綺麗なオレンジ色に紅葉した杉の苗木が育てられており、半分程度は既に山行き苗として根本をビニールで巻かれた状態で保管されている。苗木不足に陥ったのをきっかけに2014年から自前での生産に取り組んだが、最初の年は9万本の挿し木が全滅、その後7年目までの得苗率(挿付本数に対する出荷本数の値)は良くても58%という厳しい状況の中で試行錯誤を続けてきた。ノウハウを共有しながら生産に取り組む協議会の会員は当初の10名から30名に増え、昨年は得苗率74%、41万本のコンテナ苗を生産したという。佐伯では毎年400㏊近い伐採地に植林しているので、必要な苗木は70~80万本になる。全てを地元で生産するという目標にはまだ遠いが、失敗してもくじけない、しかし無理をせず時間をかけて目標に向かっていく、その姿は正に佐伯の真骨頂を示していると思う。
今回、これほど多くの方が佐伯を訪れたのは、佐伯が放つ希望の光に惹きつけられたからだろう。森林組合という枠を越えて、地域の森林を守りつつ経済を回す大きな力になっている。直接雇用の従業員は150名程度でも、請負の造林班は180名、佐伯に原木を供給する素材生産事業者や資材・運送関連の事業者も含めると、地元に大きな雇用と経済効果をもたらす存在だ。そして何より、森が伐られてもまた森に還るという信頼と安心感を地元の人々にもたらしている。
正確に言えば、佐伯市民でも佐伯の山に関心のある人はそれほど多くはないかもしれない。しかし人々は、市内を流れる番匠川(ばんじょうがわ)の水質には敏感だ。佐伯の山から出てリアス式の海岸に注ぐこの川の水が濁れば、水産物の水揚げに影響が出る。山から多くのミネラルが供給されるおかげで豊かな海の恵みがあることは、多くの人が知っている。佐伯広域森林組合は山を守ることで海の資源も豊かにし、伐採して使うことで市民の暮らしを支えている。
「森林組合のくせに10万m3の製材所など不相応」そんな影口に耐えてひたすら努力してきた人々は、到達した地点に満足していない。これからも更に挑戦を続けていくその姿勢を、佐伯の山で育つ様々な林齢の杉の若木、ゴミの無い綺麗な伐採地の様子と共に、今回参加された方々が各地の現場に伝え、参考にして頂けたら幸せなことだと思う。
文月ブログ
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