裏山の木を在庫にし、AIを活用した建築サービスで地域の建築需要を先行受注、予約内容に合わせた効率的な伐採・造材・加工で木材の価値を極限まで高め、近接した工場内で住宅の躯体を構成するパネルにまで組み上げて更に付加価値を付け、工務店やビルダーに供給する、それが私の考える森林直販だ。先週書いた文章へのコメントに、誰がその役割を担うのかという疑問があった。私の答えは、「誰にでも可能だが、山に利益を還そうとする人達が担うように背中を押したい」というものだ。
森林直販の担い手は誰か、というテーマは、過去にも繰り返し問われ、自分なりに考えてきた。分業による長いサプライチェーンが縮小・統合されていく時、その担い手となるのは、元の商流に属していた者とは限らない。業界の外にいた事業者が、フラットな視点で全体を見渡し、新しい技術を使って全てを一から構成し直す場合もあるだろう。巨大な資本力が物を言う時代、そうやって既存の流通を飛び越え、広がっていった企業は今も強い力を持っている。しかし、私の実現したい森林直販の重要な条件は、森林資源を頂点とし、その成長量の範囲でしか供給しないという点だ。富の源泉の枯渇は誰も望まない。事業を永続させるためには地域の森林の健全な維持管理が不可欠で、それに同意するからこそ、利害の対立する事業者同士が連携できる。地域の外に出ていくことはなく、あくまでもその地域内の最適解を追求する。
九州のような、建築需要より木材の生産量が遥かに大きな地域は、従来型の大量生産モデルが存続するだろう。しかしその内の一部でも地域の木造需要に振り向ければ、利益率を高め、立木をより高く買い、従事者により良い待遇を提供できる。
首都圏や名古屋・大坂など大きな港湾に面した地域では、これまでどおり、外材も含め他地域から大量に入って来る木材を使って住宅を建てればいい。但し、土地も資材も上がる中、木造の注文住宅はもちろん、マンションも一般のサラリーマンの手が届く価格ではなくなっている。そこから、地域への移住や二拠点生活に目が向けられていくだろう。
森林直販の恩恵を受けられるのは、土地の価格がそれほど高くない、近くに山林の多い地域、つまり地方都市や中山間地域だ。そういった地方にも底堅い住宅需要があり、例えば日本で最も人口の少ない鳥取県(約53万人)でさえ、年間1,770棟(R5)の木造住宅が建っている。人口10万人当り334戸の計算だ。しかしこの内の何棟に、地域内の木材が使われているだろう。地元の工務店が建てる住宅でも、材料費のほとんどは域外に流出していると思われる。
スギの原木1m3の価格は15,000円前後だが、工務店が施主に売る価格は150,000円にもなる。AIを活用して地域の建築設計図書10棟分から必要部材を抽出し、その用途に向けて木材を加工、住宅部品にまで組み立てるなら、原木を30,000円で買う事が可能だという試算もある。そのための事業統合、または複数企業に跨る事業連携を成し遂げる地域のリーダーは、できれば森林組合など山に関わる人達であって欲しい。しかし実際は、地域に根差した工務店かもしれないし、もっと言えば地元のスーパーの経営者、不動産会社や社会福祉法人であるかもしれない。地域の森林を活かし、守ることがこの事業の要だと理解してくれるのであれば、誰が担い手でも全く構わない。
どうせ人はいなくなり、住宅など建たないと諦める地域は恐らくそうなっていく。誰かが必死になって地域の森林を活かし、住宅資金を域内に循環させ、安定した仕事を生み出す地域には、若い人達が定着して新しい家を建てる。そこにはきっと、森と調和した暮らしが続いていくだろう。残るべき地域には必ず強い意志を持ったリーダーが生まれるはずだと、私は信じている。
文月ブログ
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