佐伯の管内を出て宮崎県に入ると、綺麗に造林された山に交じって、あれ?と違和感を覚える光景が目に飛び込むようになる。再造林されず削られたような山肌、中には業者が置き去りにした原木が散らばり、雨が降って流れ出したら危険だろうと感じる場所もある。佐伯では伐採という行為が再造林可能な範囲内でコントロールされているが、ここでは誰かが良いところだけをつまみ食いしている印象だ。宮崎県は長年、スギの生産量日本一を誇る林業地だが、一部の事業者による乱暴な伐採が横行し、造林未済地も多い。
佐伯と耳川のほぼ中間、延岡にある宮崎県東臼杵農林振興局の会議室をお借りし、2日目の午後は宮崎の再造林条例について、更に耳川広域森林組合について学んだ。
東臼杵農林振興局は延岡市と耳川流域を管轄する役所で、今回のツアーでは企画段階から協力を頂いている。その方々に、宮崎県が定めた再造林条例について詳しく話を伺った。
「宮崎県再造林推進条例」は2024年7月に公布・施行され、県民一丸となって森林を守り育てていくために、財政的な措置を講じた上で関係各所の役割を定めた条例である。
具体的には、県内の8つの森林組合ごとに再造林推進ネットワークを作り、構成員間の情報共有を円滑にしつつ、造林の補助率を嵩上げする仕組みだ。森林組合の多くは複数の市町村に跨っていて、素材生産事業者が伐採した土地が放置されていても、これまでは個人情報の壁に阻まれ、森林組合が所有者に接触することが難しかった。それがネットワーク内でスムーズに情報開示され、伐採届が出た段階で、所有者に再造林の打診ができる体制が整った。再造林の補助率も、従来は68%だったものを、森林環境譲与税を活用して県と市町村がそれぞれ11%を負担し、90%にまで嵩上げした。耳川広域森林組合では、この原資を使って造林班に賞与を出すことができるようになった。
ネットワークの構築には、問題のある事業者の排除という、もう一つの大きな狙いがある。一部の業者は、再造林に備えて伐採跡地を片付けるという基準を守らないばかりか、所有者の意向をしっかり確認せずに契約書を偽造するケースさえあると噂されている。そのような業者をネットワークから締め出し、所有者が安心して伐採・再造林を任せられる事業者を選べるようにする。県では警察官が同行する伐採地のパトロールも行い、ルールの遵守を促しているそうだ。これを聞いて私は、宮崎県の方々がいかに本気で再造林に取り組もうとしているかを知り、胸が熱くなった。一部の業者による誤伐や、再造林に配慮しない伐採に、誰よりも憤りを感じているのは地元の人々のはずだ。解決にはまだ長い時間がかかるだろうが、県の方々の顔には、正しい道を歩み始めた希望と誇りが浮かんでいた。
次に耳川広域森林組合に関する説明を伺った。日向市と門川町・美郷町、諸塚村と椎葉村という1市2町2村を管轄する森林組合で、森林面積は143,000㏊、国有林はごくわずかで、9割以上が民有林という地域だ。佐伯よりも多い、年間約500㏊を再造林しているが、主に作業を担っているのは直接雇用の従業員だ。佐伯の場合は請負がほとんどなので、そこは大きな違いだと言える。製材所を運営し加工も行っていたが、三か所に分散していて設備も古く、赤字が続いていたため、昨年末に製材事業から撤退した。製材担当者の多くは他社の製材工場に移ったと聞く。この地域は日向市に中国木材の巨大工場があり、売り先は決まっているので、今後は森林に向き合うことに集中していくそうだ。
しかし現状は多くの課題を抱えている。利益の出る伐採の多くは民間事業者が行い、森林組合は再造林を一手に引き受けているが、過去の経緯があり所有者に負担を求めることができない。500㏊の植栽を行えば、毎年2,500㏊の下刈りが必要で、除間伐の面積も500㏊を超える。これを120人の造林職員で行うのは至難の業で、最近は請負の発注も増やしているが、管内の再造林需要に追い付かず、2~3年待ちとなることもある。伐採後に時間をあけると植物が茂り、下刈りしないと植え付けができず二度手間になる。特に上述したようなルールを守らない業者の伐採跡地は、捨て置かれた原木や大小さまざまなタンコロが散らばり、処理には大変な労力がかかる。一般的な地拵えでも㏊当たり20~30万円が必要で、それが無ければ作業員の待遇をもっと上げられるはずなのにと思う。
明るい材料も無い訳ではなく、耳川流域の路網密度は45.8m/㏊と極めて高い。全国平均のほぼ倍の密度(R5年度林業白書)で道が付いているので、それを活かした施業の効率化や移動式のチッパーによる収益改善の可能性がある。ドローンによる資材運搬も日常的に行われており、AssistZと組み合わせた地形データの活用の他、材積推計オプションも導入予定だそうだ。
厳しい条件の下で、いかにして雇用を維持し、再造林を進めていくのか、次回は翌日に訪問した再造林現場の様子を含むツアー最終日についてお伝えしたい。
(続く)
文月ブログ
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