文月ブログ

森と生きるために-「再造林型林業協定」②森林と建築の結婚(ウイング)

再造林費用を上乗せした価格で年間10,000立法メートル以上の製材品を取引する、そして公開はされていませんが、協定書には価格も明記されていると聞きます。このような協定が発効し、関係者全員が継続を望むような実効性、有効性を持つために、契約の当事者はどのように行動しようとしているのでしょうか。推測を含みますが、私なりに解釈してみようと思います。

まず誰もが不思議に思うのは、なぜウイング株式会社(以下ウイング)が一般的な価格よりも「高く買う」ことを決めたのかということでしょう。2×4(ツーバイフォー)は気密性や断熱性に優れるとされますが、近年は在来木造が施工精度を高めてきたこともあり、ウイングの顧客はどちらかと言えば高機能よりも手頃感を売りにする住宅会社が中心です。原材料を少しでも安く安定的に仕入れようと、25年も前にカナダに現地法人を設立し、SPF(スプルース・パイン・ファー)を大量に輸入して2×4パネルなど建設資材に加工し、販売してきました。長年にわたる太いパイプが功を奏し、一昨年のウッドショックの際にも、極端な資材不足に陥ることはなかったそうです。一方で、ウイングの経営陣は国内にも材料の調達先を求めたいと十数年前から各地を回り、2×4材の生産を依頼してきました。しかし、在来木造用の柱との規格の違いや、JAS認定が必要なことなどから、なかなか引き受けてくれる会社が無かったと聞きます。日本では木造住宅と言えば在来工法が8割近くを占める状況ですから、無理もありません。それでも、東北や九州などいくつかの企業が求めに応じて杉材を供給するようになり、ウイングではその実績から、杉がSPFに劣らない適性を持つと確信するようになったのです。

そんなウイングが価格を上げてでも国産材の調達先を増やしたいと考えた理由、それはやはり、カナダや欧州からの将来的な安定供給に不安を感じているからでしょう。これまで日本は木材貿易において、強い買い手としての存在感と権益を持っていました。日本向けに輸出されるSPFは「J(ジェイ)グレード」と言われ、生産量の上位20%にあたる、最も品質の良いものを選んで仕分けされたものでした。しかし、今や木材貿易の主役は中国などの新興国に移り、円安の影響もあって、いつまでそのような買い方ができるのか、誰にも見通せない状況です。

更に国内では人手不足が顕著になり、2024年問題と言われる物流の大変革も迫っています。現在のウイングの主力工場は、運送業者を含め300人以上の働き手がひしめく労働集約型の生産方式で、今のままではいずれ立ち行かなくなる、経営陣にはそんな危機感もあったのでしょう。そこで改革を託されたのが、木造大型パネルを開発し、在来木造のデジタルデータ化を成し遂げたウッドステーション株式会社の塩地会長でした。

塩地氏はウイングの工場を視察すると、即座にその問題点を見抜き、処方箋を示しました。そして、わずか2か月後には、在来で培った技術を用いて、2×4のパネルにサッシや防水シートを取り付けた「建築パネル」で木造アパートの上棟を成功させたのです。物流問題に対処する分散化や、人の目に頼る検品を減らす視認システムなど、求められる解決策は、木造建築のデジタル化を進めてきた塩地氏が加わることで実現の可能性が高まるでしょう。プレスリリースには、「ウッドステーションは、本取引の工業化、効率的物流システムの発展を支援します。」と書かれています。これを見ても、この協定の狙いは単なる木材調達ではなく、森林と建築を結ぶ最適解の追求にあると言えるのではないでしょうか。

次回は、佐伯広域森林組合がどう取り組んでいくのかについてお話します。

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