ずっと準備してきた「森林列島再生論」が9月初めに出版される予定です。校了の時点でやれる事は全てやったと思っていても、やはり後から「これも書きたかった」と思う内容が浮かんできます。その一つが、あまりに細かく分かれたままの、日本の森林の所有形態の問題です。日本政策投資銀行の方が、日本の森林の所有者は約225万戸と書かれていました。そのうちの7割が、1haに満たない土地の所有者です。そして、所有者とされる人が亡くなっていて、所有権を持つと推定される人が数十人に増えている場合があり、なおかつ、土地の境界線が不明になっているケースも多いのです。
中には、自分では森林を管理できないので、きちんと処分したいと考える所有者もいます。しかし、売りたいと思っても、中々買い手はつきません。ある程度まとまった面積で、道路に近くて木材の搬出がしやすいなどといった恵まれた条件でない限り、買う方も利益を上げられる見通しが立たないからです。実際、栃木県内で山を買い、地元の木材を加工して住宅を建てるビジネスを手掛ける企業グループも、1ha以上であることを条件にしています。一定以上の面積にまとまっていないと、森林には何も手をつけることができない、というのが実情なのです。
林業関係者の間ではこれは昔から認識されていて、森林組合の中には、そのようなバラバラな土地の所有者を回り、管理を委託するという承諾を得て、まとめて施業を行う「集約化」という事業を地道に続けてきたところもあります。10年ほど前ですが、愛媛県の久万広域森林組合を訪れた時、職員がタブレットを持って山主さんを回り、集約化を進めていると聞きました。今も、境界線の確定や所有者の特定を進めるためのアプリ開発なども行われています。
これまで登記の期限が決められていなかった土地や不動産の登記を3年以内に行うことが、2024年4月から義務化されます。しかし、今後相続する人に義務を課しても、既に所有者不明になっている土地には手が及びません。都市部の空き家対策にはなるでしょうが、あまりに複雑で費用対効果の低い山林については、焼け石に水でしかないように思います。また、多くの市町村が森林環境譲与税を使い、所有者に今後どうしたいのか、意向調査を行っていますが、動きが遅く、その先の有効な土地利用につなげられるのかは不透明です。
「森林列島再生論」で森林の持つ可能性が広く認識されることを契機に、森林利用の突破口が開けるような創意工夫を編み出すこと、そこに私自身が挑んでいこうと思います。
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