文月ブログ

森と生きるために-木造高層ビル

先日、大手保険会社が、丸の内に高さ100メートル、地上20階の木造高層ビルを建てるというニュースが流れてきました。昨年、公共建築物等木材利用促進法が改正され、対象が民間の建築物にも広がったことや、企業がSDGs・ESG投資といった考え方を重視するようになったことなどから、国産材を使おうとする機運が高まっているのでしょう。ニュースの最後にも、戦後植えられた国内の森林が利用期を迎えていて、このような建築物が林業再生につながることを期待する、と書かれています。
しかし本当にそうなのか、正直なところ、私は疑問を持たざるを得ません。正確に言えば、木造ビルが悪いという訳ではなく、それだけが突出して、すそ野の広がりを伴わないことが問題なのです。
昨年、埼玉県のある製材所を訪ねました。そこは全国でも100か所ほどしかない、機械等級区分のJASの認定工場です。近隣の町が、地元の木材を使って庁舎の建て替えを計画しており、その製材・乾燥を行っていました。そこで社長が嘆いていた話が、私のこの問題に関する理解を深め、問題を整理する鍵を与えてくれました。
地元の山から伐り出される木材は、当然のことながら質の良いものからそうでないものまで様々です。そして一般住宅と違い、役場の建物ともなれば、かなりまとまった量の建材が必要になります。設計士は普通、デザインや空間を広く使いたいという要請を重視し、大きなスパンを飛ばす(柱や壁の間隔を空ける)ために、トラス(三角形で支える構造)を組んだり通常より背の高い梁を使ったりします。その結果、多くの場合、一般に流通する規格ではない、特殊な材料を使うことになるのです。地元の材を使う、という制約があると、様々な品質の材の中から、特に選りすぐった良いものだけを集めることになりますが、これを製材・乾燥しても、全てがJASの基準に達し、使えるとは限りません。住宅以外の木造建築は、構造計算が必要なため必ず機械等級のJAS材であることが求められますが、その基準に満たなかったものは、規格外のため他の用途に回すことが難しいのです。結局、部材の不足を恐れてかなり多めに製材を行う必要があり、それを考慮すると1本当たりの単価はどうしても高くなってしまいます。また山主や伐採業者は、伐り出した材で庁舎用に採用されなかったものも、普通の製材品や合板用などに販売しなくてはなりませんが、役場の建て替えのような一過性の需要のために伐採量を増やすと、BC材と呼ばれる低質材が一時的に増えて、保管費用が嵩み、仕方なく安値で売ることを余技なくされる場合もあります。つまり、一過性の大量需要は、供給側に負担をかけ、コスト的な合理性も低い、かけ声だけの林業振興に陥りやすいのです。
世の中の耳目を集めるための木造ビルだけでなく、倉庫や店舗、低層アパート、もちろん住宅を含め、普通の建物にもっと国産材が使われる状況、すそ野が広がることが、国内の林業の再生のために最も重要なことだと、私は考えます。木造大型パネルがその促進に役立つことは、繰り返し述べているとおりです。継続する小さな需要を取り込み、それを再生産し続ける、それこそが、小さな巨人「大型パネル工場」に期待される役割です。

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