信州大学農学部の森林計測・計画学研究室で、加藤正人先生と学生さん達が成し遂げた研究は、精密林業計測株式会社というベンチャー企業の事業として活用が始まっています。会社を立ち上げて5年、主に自治体向けのサービスとして着実に実績を上げてきましたが、一方で先の展開が見えない、行き詰まりに直面してもいるようです。
その要因の一つは、計測し解析した森林の情報が、納品先で有効に使われていないという現実があります。森林環境譲与税の創設もあり、自治体は新しい試みとして森林の計測にお金を出していますが、せっかく出て来た情報の使い道がわからず、机にしまい込まれていると言っても過言ではありません。精密林業計測のメンバーは、それを知っていても、何をどうすれば打開できるのかがわからず、不安を抱えながら仕事を続けていたのです。
そこに、ウッドステーションの塩地会長が現れました。テレビ取材の機会を利用し、彼らの技術を実際に見ることと併せて、一人一人の目や動きなどを観察し、その思いをくみ取ろうとしているように見えました。そして取材の翌朝、塩地会長の提案で、急遽ミーティングが行われることになったのです。
朝9時に会議室に集まったのは、塩地会長と私、加藤先生と精密林業計測のメンバー、研究室の学生でした。塩地氏は彼らの置かれた状況と課題感を見通すように言い当てた後、こう言ったのです。「林業はコンテンツ産業になるべきだ」と。「コンテンツ産業」この言葉を聞いて、最初は戸惑っていた人々も、続く説明を聞くうち、次第に大きく頷くようになっていきました。曰く、今のままではこの会社は大きくなれない。現在は計測したデータの著作権は発注者側にあり、データベースへの掲載は許可をもらって行っている状況で、自由に二次利用することができない。これまでの委託契約の他に、共同調査のような、料金を抑える代わりにデータの所有権を会社が持つようなサービスを作り、資産としての情報を蓄積していくべきだと提案したのです。
森林には、単に建築や家具の材料としての価値以外に、多くの可能性があります。特に、彼らが描き出す森林の詳細な透視図は、生きている自然の力強さを、そのまま人に伝える力を持つものでした。塩地氏はそれを「命のデジタル化」と表現しました。これほど美しくリアルに、生きている樹木を描き出した画像は、確かに見たことがありません。私自身もその言葉にハッとすると同時に、その価値の大きさに改めて気づき、具体的な利用方法がいくつも浮かんできました。ゲーム産業や福祉関連など、これまで考えたことも無かった世界との連携が見えてきます。森の中の獣道を探すとか、雨が降った時の水の流れを予測するゲームなど、面白いコンテンツを生み出す素材になり得るでしょう。もちろん、建築との連携は大型パネルというツールを使って進めていけばいいですし、カーボンクレジットなど金融との結びつきにも、説得力のある画像は大いに役に立つでしょう。山の中に通信・電力などの設備を持つ企業や、製紙会社・バイオマスエネルギー産業も、詳細な森林資源情報を必要としているはずです。デジタルデータを資産として蓄積し、二次利用で収益を得ていくこと、これが彼らの会社を成長させ、ひいては日本の森林の価値を更に高めることにつながるでしょう。目の前にブルーオーシャンならぬブルースカイが広がっていること、但し、そこに至るためには、各自が考え抜き、知恵を足し合わせてより多機能・高性能な飛行体(組織)を作らなくてはならないこと、それを若い人達と共有できた、貴重な旅になりました。
(写真提供:高橋幸司)
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