孤児だったアンが引き取られたマシューとマリラの家は、「グリーンゲイブルス(緑の切妻屋根)」という名前でした。切妻屋根は、本を開いて伏せたような山形の形状で、シンプルですが雨や雪に強く、世界中に見られるもののようです。欧米では個人の家にも名前をつけるのだなと、初めて読んだ少女時代には強い憧れを抱いたものです。
ご存じの方は少ないかもしれませんが、アンシリーズはこの後もずっと続きます。
アンはこの家で成長し、女学校に通い、地元の小学校で教師をして学費を貯め、遠く離れた都会の大学に進学します。この時、クラスメイトと一緒に借りた一軒家は「パティの家」という名前でした。持ち主の老姉妹は、数年かけてヨーロッパを旅行するため、アンとその友人達に格安で家を貸したのです。卒業間近、アンはクラスメイトを通じて知り合った、理想の男性に求婚されますが、ギリギリのタイミングで、その理想が単に自分のロマンチックな思い込みだったと気づきます。そしてようやく、昔「にんじん」と自分の赤毛をからかい、腹を立てて石板を頭に落とした、しかしその後は友人として最も近くで支えてくれたギルバートへの愛情を自覚して、彼と婚約します。
ギルバートが医師となる勉強を続ける間、アンは女学校の校長として様々な経験をします。ようやく結婚して入居した、診療所を兼ねた海辺の家は「夢の家」という名前でした。しかしアンが最初に授かった女の赤ちゃんは、生後すぐに命を落としてしまいます。そんな悲劇を乗り越えて、アンは次には元気な男の子を生みました。
子供が更に増えて、家が手狭になった頃、一家が最後に移り住んだのは「イングルサイド(炉辺荘)」という名の大きな家でした。敷地の一角に小川が流れ、木立に囲まれた立派な家です。ギルバートが医師として成功し、経済的にも安定したことがわかります。
アンが暮らした家の様子を、モンゴメリは丁寧に描写し、村岡花子氏は見事な翻訳で、私達のイメージを膨らませてくれました。読み返すごとに、いつか自分もそんな幸福な「家」を作りたいと、密かな夢を育てています。
文月ブログ
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