「大型パネルを道具に、いや武器として使え!」先日行われた大工の会で、塩地氏はそう言って、大工に覚醒を促しました。お前たちは凄い能力を持っている、なのにこのまま安く使われ続けていいのか、文句を言うだけ、耐えるだけで済まさずに、大型パネルを自ら使いこなせ、というのです。
大工というのは自称で、多種多様な技能や職務ごとに分かれ、それまで横のつながりがほとんど無かったそうです。使っている道具のメーカーが違うだけで、反目し合うことさえあると聞きました。伝統的な手刻みにこだわり、それを継承する人もいれば、CLTを使った先進的な工法を操る大工もいます。大工の会を主催した木村建造の木村氏は、こうあるべき、という答えなど無い、何をしようが、俺は大工だと思う人が選ぶ道を、自分は尊重すると言います。ただし、現状に満足していないなら、その状況を打破するために、大型パネルという武器を積極的に使ってみようと呼びかけたのです。
大型パネルの情報処理について説明を受け、パソコンのモニターをのぞき込んだ大工達は、担当者の作業が、まさしく現場で自分達のしている事と同じだと気づいて驚愕していました。発注者と電話でやり取りし、「納まり」を図面に詳しく表示していくのです。IT大工と言っても良いその作業に、自分達の能力を生かしつつ、工場でのパネル生産や、現場施工に携われば、大工にとって大きな可能性が広がります。その先には、住宅を施主に直接、販売することも見えてきます。融資を受けて大型パネル工場を建てれば、自分が経営者の側に立つことになるのです。
一方、負け続けて来た日本の森林にも、大型パネルは救世主になり得ます。これまで、強度や乾燥、安定供給など海外材の強みに押され、国産材は住宅部材の中で最も安い、間柱などの生産が中心になってきました。製品価格が安い上に、大量の在庫を抱えるか、もしくは遠くまで運ぶかの二者択一を迫られ、原料となる立木を安く買うという形で、負担を山に押し付けてきたのです。しかし大型パネルは、建築の需要情報をもとに、逆算して必要な木材を割り出すというマーケットインの生産を可能にします。この技術は無駄を省き、木材の歩留まりを上げて原価を圧縮します。しかも中間流通を排除し、サッシなど他の部材の利益も取り込むことで、高い利益率を実現できるのです。日本の山には、手入れをされず、製材品にならない森林も多く存在しますが、それらは、木の皮や製材端材と共に、バイオマス燃料として供給できます。得られた利益を、山の維持管理に生かす仕組みを作れば、日本の森林は元気になり、多くの継続的な雇用を生み出すでしょう。
昔、使用する木材の調達には大工自身も関わっていました。今では、多くの現場であらかじめ当てがわれた材料を使うほか、不足分をホームセンターで買おうとしても、国産材の品ぞろえは限られます。大工が大型パネルを武器に社会的地位や経済力を取り戻す時、地域の森林に深く関わり、それを生かす最適解を導き出せる存在になるのではないか、私はそれに心から期待しています。
文月ブログ
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