文月ブログ

幻の需要を追って

一週間前まで空だったスーパーのお米の棚に、複数の産地の新米が並べられていた。南海トラフ巨大地震の注意情報や台風の影響で、品薄になるという不安から消費者が買いだめし、手に入らなくなったお米。しかし農林水産省が発表したとおり、たまたま新米が出回る前の在庫の薄い時期が重なっただけで、9月になれば出荷が相次ぎ、あっという間に米不足は解消に向かいそうだ。

これを見て思い出すのは、コロナ禍を機に起こった2021年のウッドショックだ。コロナによる実需の減少を予想して、木材業界が在庫を減らしたタイミングで、海外からの木材製品の輸入が滞る事態になり、木材の値段が一気に跳ね上がった。しかし、実際に輸入が止まって家が建たない状態になったのは、国産材で代替するのに設計変更が必要なベイマツの梁くらいで、住宅の着工戸数が大きく増えた訳でもない、それなのに何故、柱や梁だけでなく羽柄材まで高騰したのか、未だに理由が良くわからない。

問題だと思ったのは、幻の需要を追いかける業界の姿勢が、再造林の遅れ・未済に繋がっているのではという点だ。掲載した図は、熊本で昨年企業したばかりの造林専門会社、「木人舎(こびとや)」の椎葉代表が作成されたものだ。H26年(2014年)には主伐に対する再造林率は82%、この年の熊本県内の木造住宅着工戸数は6,284戸だった。もちろん、県外への出荷も多いだろうが、まずは足元の需要と比較してみる。令和28年(2016年)に熊本で震災が起こったため、その後の令和30年(2018年)には住宅着工が9,614戸に増えている。これはある程度実需を反映したと見られるが、戸数の伸びが1.5倍なのに、主伐面積が2倍以上になっているのは、高性能林業機械への補助金投入など、国の政策の影響かもしれない。そして問題の令和3年(2021年)、ウッドショックの起きた年には、主伐面積は平成26年の3倍近くにまで増えたが、この年の県内の木造住宅着工戸数は8,060戸、この間、全国の木造住宅の着工戸数は2014年:429,000戸、2018年:445,000戸、2021年:439,000戸と大きく変わっていない。合板など、海外産から国産に切り替わった部材もあると思われるが、林野庁の資料を見ても、国産材に占める製材品の量はあまり変わっていない。大きく増えたのはバイオマス向けの燃料用だ。

注目して欲しいのは、この間の主伐面積の大幅な伸びにも拘わらず、再造林面積が全く追いついていないということ。令和2年(2020年)まではほぼ横ばい、令和3年にようやく増加に転じたが、令和4年でも再造林率は約50%に留まっている。機械化しやすい素材生産の現場に多額の補助金が投入されてきた結果、何が何でも機械を動かし、原木を売らなければ成り立たない事業者が増えた。そのせいか、再造林を考慮した片付けがされない、荒れた伐採地が広がって再造林を妨げているとも聞く。

木材は国際商品だから、相場の乱高下は仕方ない、そんな諦めと勘に任せた取引が、木材の価格を下げ、燃料用にたたき売られる状況を作っているのではないだろうか。地元の木材需要を正確に捉え、そこに供給できる体制を作る、そして再造林できる分しか伐らない、そういう仕組みを可能にする技術が、建築サイドによって開発されつつある。地域の山を守りたい、そう考える人々にこそ、それを活用して欲しいと思う。

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