文月ブログ

山造りで生きる

再造林協定で注目される佐伯広域森林組合、その実際の作業現場を始めて訪ねた。夏は下刈りと言って、植えた苗木より早く成長する雑草を刈るのが主な仕事だ、山の斜面から降りてきてヘルメットを脱ぎ、到着した私達を出迎えてくれたのは、驚くほど細身で色白の男性だった。スーツを着て国際空港にいたら、世界を飛び回るビジネスマンに見えるに違いない。真っ黒に日焼けした、武骨な男性の姿を予想していた私は、自分の思い込みを裏切られて、むしろ清々しい気分になった。
男性は饒舌に、造林がいかに良い仕事かを語ってくれた。夏の炎天下の下刈りは過酷だと思われているが、大変なのは暑さだけで、実は体力的にはきつくないのだそうだ。草刈り機は腰のベルトに付けるので、斜面では重さを感じない。歩き方や機械の扱いには技術があって、それさえ習得すれば、一日やっても疲れが残ることはない。夏季の実働は5時半から遅くても11時くらいまでなので、休憩は一度で十分、帰れば自分の時間がたっぷりあると。
男性は以前、いくつもの職を転々とし、うまくいかずに10年間、家に引き籠っていたそうだ。言われてみれば少し神経質な感じもするが、今の彼の口から出る言葉は、自信と稼げる喜びに溢れている。お父上の死をきっかけに佐伯広域森林組合に入り、造林の仕事を学ぶことにした彼は、二年ほどで十分な技術を身に付け、保険の営業をしていた弟さんを誘って独立した。5年目の今では親方として、その地域の造林を一手に引き受け、組合や山主さん達の信頼を勝ち取っている。最近は従弟も加わって、三人で更に多くの仕事に取り組むつもりのようだ。初心者は最初の年は年収300万円程度、まだ仕事ができないので親方の持ち出しになる。しかし二年目以降は、やればやっただけお金になり、年収1000万円もあり得るという。
下刈り作業は、場所や条件にもよるが、1ヘクタールで13万~14万円、今やっている場所は傾斜が急なのと、一人が初心者のため、3日かかりそうだとのこと。慣れてきて2日でできれば、その分収入が上がるのは誰でもわかる理屈で、モチベーションに繋がりやすい。作業単価は他の地域と比べ極端に高い訳ではないが、重要なのは一年を通して途切れることなく仕事があることだ。春と秋はシカ除けネット張りや植栽という、更に単価の高い仕事があり、自分達が植えた場所は5年間、継続して世話をする。それを可能にしているのが、佐伯が実施している立木買い取りで、常時ほぼ一年分の仕事量を在庫として抱えている。これが、他の森林組合が中々真似できない理由らしい。立木の買い取りには、いくらで売れるかによって自分達が損失を被るリスクが伴う。県の担当者は、安定した造林体制を作るためにこの立木買い取りを進めようと、他の森林組合を周って説得を続けてきた。最近ようやくいくつかの組合が、少しずつ取り組み初めているそうだ。
確かに木材は国際流通商品で、相場の動きが大きい。佐伯の取り組みが成り立っているのは、産出した原木や加工した製材品が相応の価格で売れていくからだ。国内の住宅産業が縮小していく流れの中で、これからも確実な売り上げを維持していくために、佐伯は2×4への進出という舵を切った。その工場建屋に自前の材を使い、パネルを自社で生産することにより、更に建築の領域にも踏み込んで行こうとしている。
県外からの伐採事業者も、佐伯では造林のための山の片づけを当たり前に行う。そんな健全な競争・協力関係は、佐伯の人々が時間をかけて築いてきた宝だ。様々な林齢の木々が山腹を彩る様子は、山が生きて、人の営みと一体化している証拠だと思う。いつか地域の建築需要と無理なく連携し、遠くの需要に頼らずとも、山の仕事で地域が存続していくモデルを全国に示してくれたらと願っている。

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