森林組合0円、地元の大手林業会社40万円、小さな林業会社80万円。ある林産地の1ヘクタールあまりの間伐で、山主さんに示された見積書の金額だ。もう十年以上前になるが、小さな会社の社長さんが山主さんから譲り受けたとコピーを見せてくれた。森林組合は、お金は残らないが森林の整備ができますと言い、大手の担当者は通常より高く買っていると述べたそうだが、山主さんは迷わず小さな会社に仕事を任せた。その会社は月齢伐採と天然乾燥を組み合わせた材を、工務店に直接販売することで高い付加価値を生み出していた。
反対に、伐採を頼める事業者が一社しかない、という地域でその会社に林業関連のイベントを頼んだことがある。素人の希望者にいきなりチェーンソーでの伐倒をさせるなど、安全意識の低さに背筋の凍る思いをしたが、今思えば、競争のないぬるま湯的な環境がその一因であったかもしれない。伐採にかかる補助金の制度や手続きは複雑で、山主さんと伐採事業者の間には大きな情報格差があり、他に選択肢が無ければ言い値で売るしかない。
佐伯広域森林組合では、素材生産事業者が伐採した跡地に森林組合が再造林する。林地の片づけの仕方が悪いと森林組合から山主にそれが伝わり、次の契約が結べなくなるので、事業者は丁寧に後片付けをする。その分、森林組合の植栽にかかるコストは抑えられ、より高額での立木の買い取りが可能になる。素材生産事業者は更に高い価格で山主さんから立木を買っており、森林組合は自らが運営する製材所で適寸の丸太を受け入れ、共販所でも手数料を得るなどして、バランスを取りながら共存している。
森林のスタンダードな評価基準を考えると、森林の樹種や蓄積量、路網密度や需要先までの距離など、結果を左右する様々な要因の中に、競合の度合いがあると気づいた。競合が起きるためには一定の市場規模が必要で、林業の盛んな地域とそうでない地域がまるで別世界のように見えるのはそのためだろう。しかし大量生産・大量運搬の経済が曲がり角に来ている今、これまで省みられなかった資源が価値を持つこともあり得る。
人口1000人当たりの木造住宅の新規着工戸数は最も少ない島根県でも4.13、人口が20倍の東京都では9.56(令和3年国交省資料より)と、その差は人口や経済規模の開きに比べて遥かに小さい。地域にも住宅需要は確実に存在するが、その価値の多くは都市部のハウスメーカーや広告代理店など大手企業に流れてしまっている。地域の森林価値を高める健全な競合を作り出すには、流出している価値を奪い返すことだ。地域材を使った高性能な住宅を誰もが建てられるようになる、それを可能にする住宅産業のシステム革命を、私は期待を込めて見守っている。
文月ブログ
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