文月ブログ

重力に支えられる生命

10月のカレンダーの向こうに広がる錦秋の景色。赤や黄色に色づいた木々に囲まれた大きな岩から、大量の水がしぶきを上げて流れ落ちる様子が切り取られている。勢いのある本流は放物線を描き、岩の角で分かたれた無数の分流は直下に滴り落ちているように見える。本流は流体力学、細い流れは重力が勝っているのだなとボンヤリ考える。
重力の無い宇宙で、人はなかなかやる気を出すのが難しいと、宇宙飛行士の野口聡一さんが話していた。地球上では、重力に抗して立ち上がり、首を曲げるとか腕を上げ下ろすにも無意識に自分の重みと闘っているが、宇宙では何も抵抗が無く楽な状態なので、意識していないとボーっとしてしまうらしい。もちろん、自律心に富み、多くのミッションを分刻みでこなす訓練を積んできたプロなので、だらけてしまうことは無い。しかしやる気という心のスイッチが入りにくい時、仲間との触れあいや何気ない会話がそのきっかけを与えてくれるそうだ。
植物は重力に依存している。根が下に、葉が上に伸びるのは、それぞれの先端にある細胞が重力を感知しているからだ。向井千秋さんが宇宙空間で行ったイネとシロイヌナズナの実験では、根や茎は伸びることができても、方向がバラバラで生育のスピードも遅かった。
そして樹木は、もっと大きな自重を支えるため、そして地球の自転や太陽光の影響で生じる風や台風などの気象現象に耐えるために、セルロース・ヘミセルロース・リグニンからなる強固な組成を編み出した。私達人間は、彼らが長い時間をかけて作り上げた構造物を利用させてもらっている。魚や動物も全て、植物が水と光から変換するエネルギーに頼って生きているのだから、重力は正に地球上の生命体を支える土台なのだ。
ベッドに横になって「ふう」と息をつく時、体が重力のくびきから逃れた解放感と共に、一日の仕事を終えた充実を感じられる、そんな秋の夜長には鮮やかな紅葉の夢を見られるかもしれない。

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