「顧客接点を増やして売上を伸ばす」通常のビジネスではごく普通の営業手法だが、林業でこれを実行している企業は稀ではないだろうか。一般的な林業会社は、自社林を持っていればその山から、無ければ近隣の山主さんから立木を買って木を伐採し、市場に出したり契約工場に直送したりして現金化する。少しでも高く売りたいが、商圏を広げると運送費が嵩むので、取引先はある程度決まった会社にならざるを得ない。
そんな中、山梨県のある企業は、一般のお客様に向けたサービスで事業を拡大していた。特殊伐採の技術を利用した、庭木の剪定や支障木の伐採である。特殊伐採とは、街中や神社など、スペースの限られる環境で、安全に樹木を取り除く技術だ。緑豊かなイメージのある山梨県だが、R2年度の木材生産額は全国35位と、規模は小さい。人口も約80万人と少ないが、別荘を含め庭のある家は多い。庭木一本の処理から引き受け、一般の顧客との接点を増やすことで、「山も何とかして欲しい」というニーズを掘り起こす。最近は自社でドローンを購入し、施業地の管理や現地調査の人手を省力化する一方、山や自宅の航空写真を撮るという一般向けのサービスにも活用している。
作業班8名で、年間の木材産出量は5,000㎥程度だが、同じメンバーが造林作業も行っている。県有林の入札で、皆伐を他の事業者が落札した場合、造林は地拵えの経費がかかって赤字になることも多いそうだ。利益率の高い特殊伐採の収益をその穴埋めにつぎ込みながら、それでも山造りの仕事を続けているのは、地域の森林資源を守るという企業理念のためだろう。若い経営者に、心からのエールを送りたい。
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