2023年の年明け早々、日刊木材新聞に、2×4建築資材製造大手のウイングと、木造軸組建築用大型パネルを製造販売するウッドステーションの提携記事が大きく掲載されました。この記事ではわずかに触れられただけですが、両社はこれまで外材に頼ってきた2×4の資材を国産化していくことも前向きに検討しています。
そんな事情から、材の提供を考える森林組合や素材生産・製材事業者、更にこの動きに関心を持つ大学・金融関係者など総勢20余名で、ウイングの倉庫や工場を見学する機会が設けられました。
朝早くから車に分乗し、最初に行ったのは千葉の茜浜にある、輸入木材の開梱・検品を行う事業者さんの倉庫です。主にウイングの現地法人のあるカナダ、加えて欧米などから来たコンテナはここで開けられ、木材の傷や割れ、水濡れやカビの有無などをチェックして仕分けられます。その情報はすぐに輸出元に送られ、内容によっては値引きなど取引に反映されます。そうして検品された材が一日に350~400㎥、白井市にあるウイングの主力工場へトラックで輸送されます。カナダ材は長期契約で安定的に入ってきますが、欧州材などは相場により入手が難しい場合もあるため、多めに在庫をしていると聞きました。「バン出し」という言葉が気になって意味を聞いたところ、コンテナに輸出貨物を入れる作業をバンニングと言い、本来その反対語はデバンニングなのですが、言いにくいせいか、「バン出し」という言葉が広まったようです。
次に向かったのは、別の大手集成材メーカーの倉庫でした。今はトラックに変わったものの、昔は大型の内航船が接岸した埠頭に面した広大な敷地には、数十~数百種類の木材が保管されています。これを邸別にピッキングして配送し、または同じ敷地内のプレカット事業者に提供しているそうで、在来木造に必要な部材の種類の多さを実感する施設でした。
その後は白井市に移動し、ウイングの工場へ。最初に広い食堂で会社と工場の概要を聞きました。ウイングはグループで年間10,000棟分の資材を製造・販売する会社で、この工場は東京ドーム一個分とほぼ同じ広さ、約300人が働き、月に約8,000㎥の木材を使用して、300棟の住宅資材を加工・販売しているそうです。
私は過去にも二度訪れていましたが、今回の参加者の多くは初めて目にする工場です。2×4と言えば、部材の大きさや使う釘の種類、強度などが全て標準化・マニュアル化された合理的な工法とされています。その部材を作る工場もさぞ合理化されていると思いきや、実は人の手に頼るアナログな作業の多い工場です。最新鋭の加工機が導入され、各行程での作業効率は高いのですが、敷地のあちこちで加工された住宅一棟分の部材をピッキングする作業は目視に頼っており、ミスが起こることも少なくありません。運ばれてきた木材は95%使うと言われ、その歩留まりの高さは素晴らしいのですが、部材を切り出した後の端材を別の行程で使うため、量がまとまったらテープで巻き、それを運んで加工場所でテープをはがすという作業が随所で見られます。更に、2×4は基本的に2インチ×4インチ(製品サイズは38㎜×89㎜以上)の挽き板を重ね、釘で打ち付けて構造材を作るので、釘打ち機を使っても相当の時間と労力を要します。ウイングさんが国産材への切り替えを検討している理由の一つは、床にも屋根にも使える大きな断面の材を、国内なら調達できるのではないかという期待があるようです。「誰かヨンマルロク(406)作ってくれないかなぁ」とは工場を案内して下さった常務さんの言葉です。調べてみると、406とは乾燥状態で89㎜×140㎜の材のことでした。2×4は住宅市場の2割に過ぎず、一旦2×4用に製材した木材は、別の建築用途には使えません。従来は輸入材が圧倒的に安く、買取り保証も無いままリスクを負って生産してくれる国産材事業者はごくわずかでした。今回ウイングは、短期的には仕入れ価格が割高になったとしても、国産材を使っていく方向に転換しようとしているのです。
今回参加した皆様は全くの異業種で、よくわからない言葉が多く、説明を聞いてもピンと来ない内容が多かったでしょう。それでも、何かが大きく動こうとしている気配を肌で感じ、材の供給に挑もうとする事業者さん達を応援する気持ちを共有したように思います。
同行した森林組合関係者は、場合によっては10億という新規投資を必要とする状況の中、どうしたら2×4材の生産で損益分岐点を超えられるのか、厳しいシミュレーションを始めていました。そして「やるかやらないか」と水を向けられた際、「価格次第です」と明言したその姿には、本来あるべき価格決定権を取り戻そうとする、生産者の決意が現れていたように思います。2023年は国産材の流通改革が一気に進む年になる、そんな予感に包まれた一日でした。
文月ブログ
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