会社に近い駅の構内に、チェーン展開しているカフェがあります。周囲のお店のランチは量が多くて食べきれないこともあり、女性の訪問客がある時などに利用しています。ある日、ふと見ると木材に見えていた内装の柱の一部が傷つき、貼られていた薄いプラスチックがめくれていました。本物の木とそっくりな模様を印刷した、フェイクの柱だったのです。よくあることですが、高級感とは言わないまでも、一定の品質と心地よい空間を売りにする店なので、少し残念に思ったのは事実です。
全国展開するチェーン店の中にも、内装にFSC材を使うような、本物への拘りを追求する企業もあれば、価格と品質のバランス、つまりコスパの良さを第一に掲げるところもあります。そんな企業の選択肢として、顧客が木材に求めるのは「見た目」だけだと割り切り、それならプリントで十分だと、「木に見える」内装材を開発した事業者が、業績を伸ばしてきたのです。
一方、本物の木を扱う事業者はどんな努力をしてきたのでしょうか。残念ながら、一時期在籍していた団体で見たものは、「本物」だと胸を張れるようなものではありませんでした。木材は、山で伐られた時から、製材・乾燥・運搬など多くの事業者の手を経て流通します。最後に誰が使うのかわからないので、リスクの押し付け合いが普通になっているのでしょう。9本、12本、といった単位でまとめられた結束バンドを切ると、外側の綺麗な材とは全く違う粗悪な材が内側に入っていることも珍しくありません。驚いたことに、品質の確かさを証明するJASのマークがついたものでも、内側に基準に達しないものが入れられているのを目にしました。これでは、建築側は木材を安心して使おうという気になれなくて当然です。全ての事業者がそうだと決めつける訳ではありませんが、JAS材の普及が進まないことと、関係が無いとは言えないでしょう。
以前お会いした、床材メーカーの社長さんは、いつもポケットに木目を印刷したプラスチックのシートを入れていて、これを選びますか?と顧客に見せていました。その会社は、いくら安くて質が良くても、森林の持続可能性に疑問のある材料は使用しない、という厳しい自社基準を守っていました。そういう努力をして初めて、本物の良さをアピールできるのではないでしょうか。
木材の持つ欠点を、自分の先にいる事業者に押し付けないための自己変革と品質保証、それができる人々が報われてこそ、「本物」の木の良さが消費者に選ばれていくのだと思います。
文月ブログ
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