私が2006年に「家づくり体験塾」で大工の真似事を始めた頃、協力していた木材会社の社長さんから木材に関する講義を受けました。その方の主張は、簡単に言ってしまえば国産の無垢材を使うのが一番良いのだということです。薄く切った板を貼り合わせる集成材は、接着剤の寿命が終われば建築の寿命も終わってしまう。無垢材は適切に使えば法隆寺のように何百年も持つのだというお話でした。手刻みの技にこだわる大工さん達も皆、無垢材以外は木ではないという感覚で、当時はシックハウスが問題になった時期でもありました。私はなるほどと感心し、それ以来、無垢材が一番という信念を疑うことは無かったのです。
長く放浪した林業・木材業の世界でも、ほとんどの人達は無垢材を推します。きちんと手入れされた山の木は、適切な枝打ちによって節の無い美しい木目を見せ、柱や梁として使われることを想定した育成の後に伐採・造材が行われます。その価値に最も高い値段をつけるためには、無垢材が一番と主張するのは当然だったのでしょう。中小零細の事業者が多いこの業界で、昔からのやり方を変えずに利益を得るためには、やはり無垢材が良いのです。
一方、集成材は大規模な投資を必要とする工業製品です。大手のメーカーが大量の輸入材を挽いてラミナを作り、そこから品質の安定した集成材を作って、全国に供給しています。この16年間に、接着剤はより強力に、少ない量ですむようになり、表面に薄板を貼ることで、無垢材にしか見えないような製品も出てきています。当初は輸入材に頼っていたメーカーも、次第に国産の杉や檜を使った商品の開発を進めるようになりました。
私が無垢材信仰から抜け出したきっかけは、大型パネル(木造大型パネル詳細:私たちの製品|ウッドステーション株式会社 (woodstation.co.jp))が求める高い精度の寸法安定性に、普通の国産無垢材が中々対応できないという事実でした。山長材のようなブランド材を除き、ピンを打ったら割れてしまうようなひどい品質のものが平気で納品されるというのです。手入れをされない森林が圧倒的に増え、バイオマスという出口ができたことで、木材産出量が増えても製材品はあまり増えないというジレンマも聞きます。高額の投資をしなくても、3枚の挽き板の重ね合わせで構造材を作る技術も出てきました。それなら、乾燥が難しい無垢にこだわるより、集成化して建材として売れる材を増やす方が得策ではないのか、最近はそう考えるようになったのです。
それでもなお、できることならば、地域の無垢材を生かす方法を考えたい、それが国産無垢材大型パネル製造ラインです。まだ研究段階ではありますが、モルダーをかけた直後に大型パネルに組み込むことで、変形を抑え込もうという狙いです。理由を深く考えずに信じ込む「信仰」から、スモールサプライチェーンのメリットを生かす「活用」へ、ようやく地に足を着けて無垢材と向き合えるようになった自分に少し安堵しています。
文月ブログ
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