森林連結経営の実践、そして森林直販を実現するうえで、「信頼」は重要な基盤であり、利益の源泉となります。なぜなら、建築サプライチェーンの強化が最大の利益を生み、その実態は全てのデータの共有にあるからです。企業は普通、原材料の価格や量、製品の販売先ごとの単価、人件費などを公にしません。収入も損失も、隠すことが交渉を有利にし、利益を最大にすると考えられているのです。しかしそのために、取引ごとに帳簿をつけ、細かいデータを入力しなくてはなりません。そのための経費は企業の数だけ積み上がり、付加価値を生まないどころか、余計な運送費やタイムロスの原因になっていきます。
真に最適化されたサプライチェーンは、最初から最後まで、構成員の間でデータが共有されます。山にどんな資源がどれだけあるかは常に更新され、皆伐の予定地には同時に再造林の計画が立てられます。2か月先までの需要情報が部材単位まで開示され、使う予定の木材をいつ誰が伐採し、どこで製材され、横架材などの不足する部材をどこからいくらで調達するのかも一目瞭然です。それぞれの行程でどんな作業が行われ、その付加価値に何%の手数料が上乗せされたのか、それらが全て示されるのです。更に最終製品の販売価格と、全体の利益がどのように分配されるのかまで共有されます。企業連合などの場合、最初からそこまでオープンにするのは難しいでしょう。しかし、取引一件につき互いの得る利益の割合を決めておく、ということから始めるのは可能なはずです。
ただ、山師という言葉に悪いイメージがあるように、林業や木材に関わる人々を到底信用できないという話も良く聞きます。私自身も、15年の間にそのような事例を何度も見てきました。だからはっきり言いましょう。私がここで言う「信頼」とは、数字に裏付けられた「限界の共有」なのです。前項で述べた「地域の森林資源量」と「地域(近接地を含む)の建築需要」、それが事業の限界です。それを超えて拡大することも、再造林の不履行といった資源量の減少を引き起こすことも、組織の利益と永続性を棄損します。そんな事をする人間は、利益の分配から除外されて当然なのです。その共通理解が「信頼」の基礎、つまり組織に参加する条件となります。一時的なごまかしをするよりも、協力して利益を山に還す方が、今の受益を確保でき、将来に向けた貯蓄も増大するのです。
お伽噺と思うでしょうか、ならば、腹の探り合い、駆け引きを常とするこれまでの商習慣と比べてみて欲しいのです。そんなことをするよりも、遥かに楽で、清々しく、誰もが利益を得られる方法ではないでしょうか。
大型パネル工場を立ち上げる事業者は大きな決断をしなくてはなりませんが、仮に投資額が一億円だとしても、年間100棟を販売できれば、見込める売上高は5億~6億円になる計算です。これは企業の経営者から見れば、かなり有利な投資です。経済産業省が進める事業再構築補助金を利用できる可能性もあり、財産を投げ打つ覚悟を求めている訳ではありません。
施主の払った建築費用は、外部に流出せず全て地域の中で循環します。これが地域にもたらす効果は大きく、数千万円から時には数億円という資金の流通は、地域の経済を潤し、継続した建築需要を生むでしょう。
信頼を基礎とする組織が地域にもたらす安心と繁栄、その実践は、例え時間がかかっても全国に必ず拡がると、私は信じています。
文月ブログ
コメント