私のペンネームの「月」には、とても深い思い入れがあります。家づくり体験塾で日本の森林の危機を知った後、速水勉氏の本で林業塾に行く前に、私が林業への関心を高めたもう一つのきっかけが、エルヴィン・トーマというドイツ人によって書かれた「木とつきあう智恵」という本でした。
トーマ氏はこの本で、「新月伐採」という、冬の数か月の、新月の前後に木を伐採して使うことを推奨しています。木は本来、水分が抜けるに従い、反ったり曲がったりするものですが、この特別な日に伐採した木を製材して使えば、それが起こらないというのです。にわかには信じがたい話ですが、当時、環境系の人々や新しい技術に敏感な一部の林業関係者にはわりと広く読まれていたようです。
結論から言うと、日本ではこの方法は広まらず、実践も一部に留まりました。トーマ氏は小さな製材工場を持ち、広い森林から特に質の良い木を選んで、年間で10日程度しかない冬の新月前後の日に伐採します。その木を自然乾燥させて製材し、住宅などの建築を行っていました。日本では、根曲がりの木でも、大工が癖を見極めて使うことが良いとされますし、年間に10日ほどしか伐採できないというのは、林業の生産実態からかけ離れてしまうからでしょう。
しかし、月の満ち欠けの植物への影響は昔から知られており、農業では当たり前に活用されています。ちょっと調べただけでも、播種は満月に向けて、定食は新月に向けて行うと良い、といった月齢に合わせた農業用カレンダーがいくつも出てきます。樹木も月の満ち欠けの影響を受けているというのは、十分にあり得ることなのです。
10年以上前ですが、静岡県でこれを応用した林業を実践している会社があると知り、訪たことがあります。伐採班は、月が欠けていく時期にのみ木を伐り、枝葉を付けたまま山に寝かせて乾燥させる、葉枯らしという手法を取ります。山に木を放置すると、虫が入ることが多いのですが、月が欠けていく時期に伐れば(月齢伐採)その心配がないというのです。3か月から半年、そのままにしておき、次に近くの場所で再び伐採を行う際に、倒した木を玉切りして集材します。それを繰り返して、年間とおして安定した伐採量を保ち、乾燥にかけるコストを軽減していました。集めた木材を柱や板に加工し、更に自然乾燥させた後、直接工務店に販売するので、高い品質に見合った価格で売買が成立します。素晴らしいと思いましたが、この方法を他社が真似しようとしないのは、多くの在庫を抱えるなどやはり課題も多いのでしょう。
月が満ちていく時と、欠けていく時では、樹木の中に存在する成分に違いがある、それが反りや曲がりの起こりやすさに影響している可能性があるという、大学での研究成果も耳にしたことがあります。杉檜は特に水分が多く、木材の乾燥は、木を生かして使う上での非常に重要なボトルネックになっています。更に研究が進み、新しい技術が開発されることを期待しながら、月の力を感じ取れる存在でありたいと願う毎日です。
文月ブログ
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