文月ブログ

木材の広域流通と地産地消

木材は広域に流通していて、外材という言葉を一般の人も知っているくらい、遠方から運ばれるものだという認識が一般的だ。但し普通の消費者は木材の値段が高いと思っているから違和感を持たないが、この業界のことをちょっとかじってみると、こんなに重くて嵩張り、しかも値段の安いものをどうして遠くまで運ぶのだろうと不思議に思えてくる。
遅まきながら、最近ようやくその疑問への答えが見えてきた。ごく簡単に言ってしまえば、外国産の木材の品質や安定供給と伍して戦えるような製品を供給できる地域・事業者が限られるからのようだ。栃木県のある製材所は、注文から7日以内に欲しいという要求に応えるため、数十棟の倉庫にKD材を保管している。すぐに届けられずに、「だから国産材は使えない」と言われる状況を作らないためだそうだ。乾燥の技術を磨き、板は床暖房に使っても狂わないほど、注文が来るまで長期間寝かせておいても劣化しない。そんな大量の在庫を抱えられるのは、もちろん5年・10年先を見据えた経営努力があるからだが、その土台を支えているのは地域の木材の質の高さだろう。やみぞ杉と呼ばれる、見た目も美しく強度も高い杉の原木が安定的に出て来るからこそ、製材・乾燥技術で更に付加価値をつけ、在庫の重荷をものともしない。
上記の事業者は関東一円や東北からも原木を仕入れているが、どこからでも良い木が出て来る訳ではなく、中にはこの地域の材は買わないと決めている場所もある。木の良し悪しは気候や土壌、手入れの有無で大きく変わり、工業製品と同じようなレベルを目指せば、選ばれる原木の生産地は限られてしまうのが実情だ。だからこそ、この事業者の製品は遠く滋賀にまで運ばれ、逆に、岡山で作られた製品が東京や埼玉にもやって来る。最大手の中国木材は、全国どこへでも供給できるネットワークを構築している。
一方で、建築は地元の木で作るのが一番いいという声は昔からあり、今もそれを守り、拡大しようと努力する人がいるのも事実だ。木は繊細で、気候の異なる場所では狂いを生じるという。木と向き合い、その魅力と能力を最大限引き出そうとする大工さんならば、地元の木で建てたいと思うのは当然のことだろう。しかし今の時代、一定の質の原木を安定的に供給し、それを売れる製品に加工する事業者がいる地域以外は、地元の木を伐採して使うのはハードルが高く、高価になってしまう。そのため、せっかく先人達が植え、収穫期を迎えている日本の森林の多くが、利用できず放置されてしまっている。これを広く活用する道は無いのだろうか。その答えの一つが、先端技術で設計図書と地元の森林資源をつなぎ、山元で効率良く住宅部品を作り上げる森林直販だ。
これまで地元の木を使おうと努力してきた大工さんも工務店も、その意義を理解するお施主さんとの出会いを得て、年間数棟~数十棟を供給してきたのが一般的なケースだろうと想像する。新しい技術を取り入れ、サプライチェーンのハブとなる工場を作ることで、同じ人手で供給できる住宅部材は年間100棟になる。それが大手ハウスメーカーの家よりも安ければ、工務店にも施主にも歓迎され、自然に選ばれるようになっていく。一定の販売量が約束されれば、山で働く人の待遇も向上し、人工林の更新も進められる。全てをパネル化する必要はなく、拘りのある大工さんは現場施工をすればいい。そんな柔軟性と持続性を備えた木材供給の仕組みができたら、日本中の裏山が本当の意味で宝の山になるはずだ。広域に流通させる木材と、狭い地域で循環する木材と、どちらも共存できることが、豊かな森と共に続いていく暮らしを支えると思う。

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