文月ブログ

森を巡る旅-国産材ビジネスセミナーその5「視察旅行での学び③」

国産材ビジネスセミナーの合同視察旅行にはこの後2回、参加しました。
2016年には、前回お話した地松を扱う業者さんの地元、島根県の岩見・出雲を訪れ、ここでも忘れがたい経験をしました。最も印象に残ったのは「三瓶小豆原埋没林公園」という施設です。建物の地下には、4000年も前の太古の森林を形成していた杉の巨木が、根を張り直立した状態で保存されています。根周りが10メートル近くに達する木の化石は、縄文時代に近くの火山が噴火して、土石流が谷を埋め、その後は地形の変化が少なかったことに起因する、奇跡のタイムカプセルなのです。圃場整備の工事で発見されてしばらくたってから、運よく研究者の目に留まり、調査によってその価値が明らかにされ、発掘と保存が行われてきました。出土物の分析によれば、縄文時代にはこの地域の谷筋に直径3メートルもある杉の純林が広がっていたそうで、それは恐ろしいほど荘厳な光景です。日本人と杉との深い縁、それは理屈ではなく、このような奇跡をとおしても実感できるものです。
石見銀山では、江戸時代の日本が世界有数の銀の産出国であり、その銀が世界貿易を回すエンジンになっていたことを知りました。伝統の神楽を見たり、神社で不思議な占いを試したり、この日本で営々と命をつないできた祖先に思いを馳せる旅になりました。
2017年には、岐阜県の東白川村を訪ねました。ここでは、セミナーの初年度から一緒に参加し、今は社長として経営を担っている知人の会社を見学しました。地域で会社を営んでいると、商工会議所など様々な組織の理事などを依頼されることが多くなります。普通なら、多くが無報酬のそのような役職、特にトップの席は遠慮したいものだと思いますが、彼は違っていました。「自分にはまだ早い、と言っていたら、いつまで経ってもその任に相応しい人間にはなれない。周囲に依頼されたなら進んで引き受ける」と言うのです。実際に、地域を支える多くの組織の長を引き受け、責任を果たそうとする彼の姿に尊敬の念を抱かずにいられませんでした。
高野山、新潟、久万・土佐嶺北・高山・日田・岩手・島根・東白川、毎年の視察旅行は私に多くの知見と、人々との交流の機会を与えてくれました。しかし一方で、その時得た学びが自分の中に必ずしも蓄積せず、一過性の楽しみで終わってしまっているという自覚もありました。本業を抱えながら、箱根のボランティアで月一回の会報誌の編集も担い、現状維持が精一杯だったのです。忙しい中でも森林再生への貢献の方法を探るという志は変わりませんでしたが、どこにもゴールの見えない、正確に言うと本当はゴールしようとしていない時間だったのかもしれません。8年続いたセミナーから卒業する時がやってきました。

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