「再造林を引き寄せる旅」と銘打って、1月21日から23日にかけ、大分県の佐伯広域森林組合と宮崎県の耳川広域森林組合を訪ねるツアーを実施した。と言っても飛行機やホテルは参加者自身が手配し、大分空港に集合して森林組合の方に迎えに来て頂く方式だ。森林組合への謝礼金や現地の移動費用も参加者負担、補助金は一切使っていない。
東大名誉教授で日本木質バイオマスエネルギー協会会長の酒井秀夫先生に団長をお願いし、耳川まで参加されたのは研究者や県の林業職、造林業、コンサルなど7名だったが、佐伯だけでも見たいという方が多くいて、1日目は総勢25名になった。うきは市の森林組合や市役所、製材事業者、日田の林業会社の方々だ。
結論を先に言ってしまえば、佐伯・耳川という二つの森林組合を視察したことで、それぞれの置かれた環境や戦略の違い、佐伯の成長の理由などがより明確になったと思う。この旅で私自身が改めて感じた事、気付いた事、新たな課題などを中心に、数回に分けてレポートしていきたい。
初日は佐伯の宇目本所での座学と製材工場、チップ工場の視察、佐伯市中心部に移動して共販所を見学し、近くにある木材輸出港=女島岸壁をご案内した。
私が一番見て頂きたかったのは、何よりまず佐伯管内の風景だ。車で移動する途中、いつも、どの方向を見ても、様々な林齢の造林地が目に入る。一見裸地に見える場所でも、目を凝らせば小さな苗木が植わっている。佐伯では、木を伐ってもその後に必ず再造林が行われ、森に戻っていくという信頼が育っている。
それを支えているのが、森林組合が2009年に導入した大型の製材機を中心とした佐伯型循環林業だ。二つの共販所で年間21万m3の原木を扱い、製材工場で4.5万m3の製材品を生産し、自ら35万本の苗木を作り、素材生産事業者が伐採した土地を含めて420㏊を再造林している。更に次年度は2×4材の生産に乗り出すため新たな工場建設の用地を造成中であり、その上屋は自前の大型パネル工場で製造して建設すると言う。一般的な森林組合の概念を超えた事業を行っている。
12時過ぎに佐伯の宇目本所に集合し、まず佐伯型循環林業と、組合が使用している業務システムについて説明を受けた。佐伯のシステムの特長は、エクセルで管理する林地の情報を、QGISのシステムの位置情報に紐づけしている事だ。台帳をエクセルにしているのは、消費税やインボイスなど制度変更への対応が容易なためで、QGIS上のある地点をクリックすると、その所有者との売買契約書がPDFで表示され、担当が変わっても困らない仕組みになっている。施業履歴は25年分がデータベース化されていて、下刈りが終わって何年後、という条件を指定して検索をかけると、除伐の営業をする対象地が全て表示される。驚くのは、この仕組みを開発したのが、週に何日かアルバイトで来る技術者だという事だ。大手の開発ベンダーに委託したら巨額の費用がかかる上に、制度変更の度にシステム改修が必要になる。バックアップは毎日安価なドロップボックスにデータをアップするだけ、という手軽さは他の組織にも参考になるのではないだろうか。
座学の後は、安全のために派手なビブスをつけ、ヘルメットをかぶって製材工場を見学した。参加者の一人で機械にも詳しい山梨県の中桐氏によると、「原木をレーザーで計測しツインのキャンターと曲がり挽きギャングで自動的に製材するという、日本ではあまり見られないシステム。これによって曲がり材の歩留まりの向上、目切れの減少、チップ生産の効率化などを図っている。この機械を15年以上前に導入した先進性が佐伯の強み。」だそうだ。同じ敷地内には大型の乾燥機がずらりと並び、その熱源は工場の端材を利用する8トンボイラーで全て賄っている。
その後は本所から車で5分ほどの、チップを生産する場所に向かった。アクスターという、一億円もする破砕機が二台稼働していて、建材にならない低質材や、タンコロと呼ばれる根元の部分をものすごいスピードでチップにしていく。以前、バイオマス発電所が一か所だけだった頃は、チップの原料や質にかなり文句を付けられたそうだが、現在は4か所に増えたために燃料の取り合いになり、質へのクレームは減ってトン当たりの価格も1万円を超えるそうだ。おかげでこれまでは林地に残していた枝葉についても、最近は専門業者が回収して回り、発電所に売っているという。そんなひっ迫した状態にも拘わらず、更に別の事業者が新しく開設しようと準備を進めているらしい。供給が不足してこれ以上価格が高騰すると、建材になる木材まで燃やされかねない。そこは不安を覚えた。
次に佐伯市中心部に移動して、木材団地の中にある共販所を訪ねると、ウッドショック後に更新した選木機で木材が径級などで分別され、それを運ぶフォークリフトが走りまわっている。各車の運転席の後ろにはラジコンのアンテナのような長い棒が取り付けられ、先端が赤く塗られている。これは衝突防止のため大手製材工場で実施されているのを真似したものそうだが、導入してから衝突事故は起きていないという。佐伯は訪れる度に何かが変わっている。やれることを何でもやってみる「佐伯スピリット」が生きていると感じる。
この日の最後は、普段立ち入ることのできない埠頭の見学。あいにく耐震工事のために敷地が制限され、木材の量はいつもよりもずっと少ないが、それでも400m3の山が幾つも並んでいる。訪れた時は大型船がPKS(ヤシ殻)を荷下ろししているところだった。ここには6000m3を積める船が入港し、ほぼ全量を中国に輸出しているという。曲がっているのかもしれないが、立派な大径材も混じっている。これを国内で活かすことはできないのか、と思いつつ、バイオマスで燃やされるよりは、フェンスでも棺桶でも梱包材でも、木として使われる方がまだ良いのだと思い直した。
参加された皆様は、普通の視察とは異なる濃密な何かを感じ取って頂いたのではないかと思う。次回は翌日の、佐伯の苗畑と採穂園、再造林現場、そして午後からの、宮崎県と耳川広域森林組合に関する座学についてお伝えしたい。
(続く)
文月ブログ
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