文月ブログ

九州電力の百年の森

九州電力が湯布院に所有するFSCの認証林を見学させて頂いた。その森を管理する九州林産の社員の方々に案内して頂き、初夏の涼やかな緑と多くの鳥の囀りが響き合う散策路を歩いた。森を歩くのはいつも気持ちの良いものだけれど、こんなに心が浮き立つのは何故なのか。恐らくその森が、持続可能な森林経営をしようとする人々の手で、心を込めて管理された場所だということを知っているからだ。
約4400ヘクタール、一部は他県にもあるが、多くは湯布院を中心とした大分県の中部地域に広がっている。生産林を約45年の短伐期と55年以上の中伐期の区域に分け、環境林も公益的機能を維持する森、あるいは景観を保全しつつ利用する共生林など、明確な基準を設けてゾーニングされている。
説明を聞いて驚いたのは、こんなにも豊かな森が、100年前には何も無い荒れ地で、そこに先人達が多くの苗木を植えて育ててきたという成り立ちだ。元は水源涵養のため、そして生産された丸太は電柱としても利用されていた。
最初の植栽は1919年のことだそうで、当時からある苗木生産所は、一般道を逸れて曲がりくねる狭い坂道を30分も上った先にある。なぜそんな場所にと思ったが、聞けば所有山林の多くが存在する場所と、標高がほぼ同じなのだそうだ。そこで最初に作られた苗木は今、100年杉の林分になっている。施設の周囲をぐるりと取り囲む杉林は、良く見ると樹形や枝の付き方、葉の色や形が異なっていて、先人達が良い形質の木を見極めるために様々な種の苗木を植えたものだという。
九州で今植栽されているのはほとんどがスギだが、九州電力の森ではヒノキも成育が良く、全体の三割ほどに植えられているそうだ。数十年後にはヒノキが少なくなっているだろうから、今も高い評価を得ているこの森のヒノキには、きっと良い値がつくことだろう。
生産林で実施される間伐は、一年前に九州林産の社員や伐採を委託する事業者などが集まり、望ましい森の状態と、市況を反映した売上想定のバランスを考えて伐る木を選ぶという。主伐は景観に配慮して狭い範囲に留め、自前で生産した苗木で再造林を行う。何と素晴らしい細やかな森林管理だろうと思いつつ、それを可能にしているのは親会社の財政的な支えだという事実も忘れる訳にはいかない。この森からは年間12,000m3程度の原木が産出されているが、残念ながらその売上だけでは、手厚い管理や森林認証の維持コストを全て賄うことは難しい。
この森は環境教育のフィールドになっていて、ここで働く人々の様子を見れば、子供たちは森を育む仕事の尊さを感じることができるだろう。世の中で林業が憧れの職業にならないのは、単に良く知られていないというだけでなく、結局は、木を切り倒し、木の命を奪う仕事だと見られているからではないのか。真に森を守り、森の恵みを社会に還元する仕事が、ごく普通の経済活動において自立できるようになるために、森林認証を有効なツールにする、その意義を改めて実感できた一日だった。

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