文月ブログ

造林・保育のデジタル化

再造林をデジタル化したい、本気でそう考える造林事業者に初めて出会った。彼は生まれ故郷の市役所で長年行政に携わった後、誰かがやらねばと感じていた仕事のために役所を辞めて起業した。その地域は林業生産が盛んで、早くから高性能林業機械を導入し、他の多くの地域と同様、伐採に造林が追いついていない。私のような外部の人間は、伐りっぱなしで儲けている、と業者を責めたくなるが、彼は元行政マンらしく慎重に言葉を選んで「アンバランスな状況になっている」と言った。曰く、人が伐倒し、スイングヤーダで集材、プロセッサで造材しフォワーダで運搬というフルパッケージを小規模な事業者が導入すると、ひたすら量を追い求める世界から抜けられないのだそうだ。しかし再造林が為されなければ、当然ながら地域は「はげ山」だらけになる。ならば自分がやろうと立ち上がった。
役所勤めの間、彼は地域の課題を解決するために様々な人とつながり、教えを乞うてきた。その中の一人が「森林列島再生論」の共著者、鹿児島大学の寺岡先生だ。先生とずっと話をしてきたのが、木が育ってからではなく、植栽の段階から単木把握せよ、ということだった。造林は事前のプランニングが大事だと言う。小型ドローンを飛ばして対象地を撮影し、等高線沿いに何本植えられるかを計算して苗木発注の無駄を省く。シカ柵用の杭の間隔や本数、ネットを含む資材をいつどこに置けば作業が楽になるかをシミュレーションし、運搬用ドローンで運ぶ。植え付けの際には、信州大学で開発中のホロレンズを使った植栽位置の指示ソフトが役立つかもしれない。想定と実施結果にズレがあれば、原因を特定してAIに学習させていく。そうして苗木ごとの正確な位置を記録すれば、画像認識機能を併せ持った下刈り機の自動走行が可能になるだろう。
いやいや、林野庁が推奨する低コスト造林とは真逆ではないか、と言われるかもしれない。密植して通直に育て、丁寧に枝打ちや間伐を繰り返した材も高くは売れない時代になった。だから並材をいかに安く生産するかがカギだ、という声をよく聞く。最近はほとんどの地域で植える苗木の本数は1㏊当たり2000本程度、もっと減らすという試みもある。活着率も50%程度で良い、除草剤を蒔いて下刈りは2~3年に一度にすべきと主張する人もいる。苗木の段階から単木把握などコストがかかり過ぎるのではないか。
そんな意見にも彼は怯まない。ある場面で手をかけても、長期的に見てトータルで低コストが実現できればいい。地位などの情報が蓄積していけば、手をかける林地と省力化を優先する場所の判断も容易になる。林業に限らずあらゆる産業で働き手は減っていく。技術を駆使して、最も機械化・デジタル化が遅れている造林・保育を飛躍的に近代化させたいのだ。
彼は最後にこう言った。「昔ゼネコンのCMに『地図に残る仕事』という言葉があったけど、僕は山造りもそうだと思うんです。」拡大造林期に祖父が手掛けたという山を眺めながら育った彼の心には、バトンを受け継ぐ覚悟と共に、明瞭な地域の未来図が描かれていることだろう。

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