林業ICT、スマート林業、言葉は綺麗だが、それが指すものの姿ははっきりしない。そう気づくところから、私の手探りの探求が始まった。
「森林列島再生論」の中で、私は全国に1,000か所の大型パネル工場を作り、森林と建築を結びたいと書いた。この一年、建築側が図面のデジタル化や国産材利用の促進という形で山側に手を伸ばす様子を目にしたが、林業・木材産業側はどうなのか、その現状を知りたいと思った。しかし、単純にいくつかの県の林政窓口に「貴県の林業ICTへの取り組み状況を教えてください」と依頼しても、「何のこと?」と言われてしまう。何も知らないど素人の的外れな質問に答える義務など無いと、スルーされることもあった。やむなく知人のつてを頼り、林野庁にお伺いを立ててみた。その結果、スマート林業と言われる分野・技術は多方面にわたるが、私が知りたいことは、森林調査・森林計画、境界線確定、伐採・集材・運搬、造林事業における、オープンデータやリモートセンシング技術の活用、機械化・無人化技術の普及に関することだと理解した。それを受けて質問の内容を工夫し、ようやくいくつかの県から回答をもらえるようになった。
一方で、半年の間に35人という超スローペースながら、様々な林業現場の人の声に耳を傾けた。単なるアンケートではわからない、その地域の特殊事情を含めて、日々どんな風に仕事をし、林業ICTの利用を行っているか、もしくは導入を検討しているかを聞いた。そんな半年を経て思うのは、林業界は人がいなくなることから目を背けているのではないか、行政も、そんな事情を知りながら打つ手に窮しているのではということだ。
ある県では、オルソ画像や0.5m解像度の微地形図といった情報を背景に、森林簿や地籍調査の結果、つまり境界線を描き出し、その番号を調べられるデータを整備して公開している。しかし、それを活用している事業体を紹介して欲しいと依頼しても、該当する組織が無いという。せっかく税金で取得・解析した情報があるのに、ほとんど活用されていない。話を聞いた13の森林組合の多くが数百万円もするドローンを補助金で購入していたが、使い道は造林補助金の申請用写真撮影だけという声も聞いた。その理由は何だろう?どうやら日常業務の範囲内で元からいる従業員に操作させるのは難しい。そして何とか使い方を習得したとしても、利益には直結しないからのようだ。
日本はこれから労働人口が激減する。少ない働き手で同じ生産性を確保するか、より広い面積を管理しなくてはならない。しかし、現在そのために用意され、あるいは各種企業が提供するサービスは、一般人が使いこなすには難しすぎる。省力化のための施策が、実は専門性の高い人材を必要としているという矛盾を抱えている。そして何より、上に立つ人の多くが、自分の存在価値を薄めるようなデジタル化に及び腰なのではないだろうか。これまでと同じことをしていては現状維持すらできない時代、今の自分の保身ではなく、自分達がいなくなった後に困らないようにするための挑戦をして欲しいと思う。
そんな中で、光る技術や情熱を持った若者にも出会った。彼らが生み出すものを、誰でも安価に使える共有のサポートサービスに繋げられないか、私は今そんなことを考えながら、来年も引き続き、地道な聞き取りを続けていこうと思っている。
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