林業や木材産業の方に話を伺うと、どこも人手不足が課題だと聞く。しかし中には、大学の新卒者や他業種からの優秀な転職者が集まるとか、離職率が極めて少ない組織がある。そういった会社や森林組合に共通しているのは、様々な領域に事業展開する、あるいは従業員に多くの能力を身に付けさせようとしていることだと思う。
先日訪れた埼玉県のある森林組合は、年間の素材生産量が約5,000m3という小さな組織だが、従業員が実生の苗木生産から育林、伐採から製材の業務を一通り経験するそうだ。自分の手で育てた苗木には愛着が湧き、育った木を製材する際には少しでも歩留まりを良くしようと考える。自分達の在庫がどれだけかを知らないのはあり得ないと、資源情報はレーザー機器を使ったシステムで調査し保管しており、近隣の製材所の依頼に答えた「オーダーメイド」の原木供給を行う。そんな組合には優秀な新人が毎年入って来る。
同じ県のある素材生産事業者は、社員への安全教育と資格取得支援に力を入れている。試験の前には社長自ら模擬テストや模擬面接を実施して合格率を高める。現場では日誌を必ず付けさせ、ミスをして機械の修理が必要になった時には、修理代だけでなく、その期間の間接コストを含めて売上換算でいくら失ったのかを計算させる。それは彼らがいずれ独立という選択をした時にも役立つよう、会社の経営情報をオープンにしているからだ。
これとは逆に、九州のある地域では、高卒の社員に一年中フォワーダーの運転だけをさせる事業体もあると聞く。高校を出たばかりの、知識や経験を吸収する力のある時に、おまえはこれだけやればいいと機械の歯車のような仕事をさせるのは、せっかく山を職場に選んでくれた若者が可哀そうだ。そう語ってくれた本人は、役所を辞めて造林会社を立ち上げ、いずれ大型パネルの生産にも挑戦しようと意気込んでいる。
10年ほど前に福島のある地域で、広葉樹の付加価値を高める仕組みを作れないかと調査に行った時、製紙会社向けに素材生産を行う会社の社長は、ここで働く人間は都会に出られなかったバカばかり、木を倒して2mに切ってトラックに積むだけだからできる。そんな奴らに仕事を作るのが自分の役割だ、と言っていた。確かに、林業には能力の低い人達を包摂するという役割もあったのかもしれない。大切なことではあるが、それだけでは、地域の森林を将来にわたり守っていくことはできないだろう。
いつも佐伯広域森林組合の話を引き合いに出して恐縮だが、台車挽きの製材所から転職した柳井氏は、山仕事、プレカット、巨大製材所、森林経営計画、苗木生産の後で、工場建屋の自力建設にまで関わった。全ての人にできるとは思わないが、人は期待され任せられれば成長する。自然を相手に根気強く木を育ててきた人達は、日光や雨が時には木を痛めつける厳しい顔を見せることも知っているだろう。それに耐えて木は太り、樹高を増していく。若者を惹きつけるような仕事と職場環境を作り出せるのか、それは上に立つ人自身が成長を望み、挑戦しているかどうか、そこにかかっているように私には思える。
文月ブログ
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