林業ICTや森林のデジタル情報について調べていくと、全国に幾つか、特に進んでいると言われる地域があり、静岡県はその一つに挙げられる。先日、森林クラウド公開システムについて県の担当者に話を聞く機会があった。
静岡県は、平成18年(2006年)から森林簿等の情報公開を行っており、以後18年かけてシステムの改善を積み重ねてきたそうだ。現在でも、森林情報をオープンデータ化しているのは約30の道と県のみで、中身は森林簿や森林計画図のPDFだけ、という県がいくつもある。0.5mメッシュの微地形図を誰でも利用できるのは、全国の多くの林業事業体にとって羨ましい限りだろう。
クラウドに掲載された民有林は約40万ヘクタール、83万件の林小班が記載され、森林簿や森林計画図・林地台帳などのデータが一元化されている。アクセスにはアカウント登録が必要で、市町村の担当者は個人情報を含む閲覧・編集権限を持ち、アカウントを持つ林業事業体が電子申請した伐採届・施業届もリアルタイムで反映される。電子化に対応できない事業者が出した紙の申請は、市町村が電子化してデータベースに登録し、位置情報を地図上に表示するそうだ。クラウド内で更新されたデータは、個人情報に関わる部分を除いてインターネット上にも公開され、毎年更新されている。
これまで、GISを使った森林管理システムの話を各地で聞いてきたが、基本的にはユーザーの組織内で閉じたシステムであること、施業管理などのデータ更新が課題だという声がほとんどだった。県単位でここまでできているのは、静岡が県をあげてデジタル化を推進してきた結果だろう。今回のヒアリングに際して、県のデジタル戦略局、森林計画課、そして未来まちづくり室から担当者が同席して下さった。未来まちづくり室というのは、土木工事やインフラの維持管理を含め、ICT技術を駆使してスマートシティを構築する部署らしい。森林の担当部署が、普段からそのような部署と自然に連携していることも成果に繋がっているのだろう。
ただ一つだけ難を言えば、静岡県の地籍調査の進捗率が25%と低いことはとても残念だ。これは市街地を含む数字で、山林だけで言うと11%程度に過ぎないと言う。せっかくの精緻なデータも、所有者や境界が不明では活かしきる事が難しいだろう。静岡は大企業の事業所や工場がひしめき、新幹線や東名高速という交通の大動脈がいくつも通る豊かな県だ。人件費も高く、利益の少ない地道な調査が進まなかったのも無理は無い。その一方、これまでの常識を覆し、デジタルデータから森林の価値を割り出して、所有より利用を優先する大胆な施策が生まれる素地があると言えるかもしれない。
豊富な森林資源と大きなインバウンド需要、そして大災害の危険性と隣り合わせの県であることを考えると、県産材でモバイル住宅を作り、平時はインバウンド用に供しながら、国難級の災害時には応急住宅として使用する、という森林直販モデルは、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。その時こそ、積み上げた精密な森林資源データが県民の安心と富の源泉となり、未来をつくる土台になっていくだろう。
(写真はVIRTUAL SHIZUOKA project 公式YouTubeより)
文月ブログ
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