2019年の秋、私はある経営者団体の総会にオブザーバーとして参加しました。その団体は、企業活動を通じて社会課題の解決をしていくことを理念に掲げており、「この木どこの木?」キャンペーンなど私の活動を知った知人が誘ってくれたのです。
当時も森林を巡るビジネスに関心を持つ人がかなりいたのですが、林業・木材関係者はその会に参加しておらず、情報がなくて困っているとのことでした。知人が私を幾人もの人に紹介してくれましたが、そのうちの二人から、森林について勉強したいので、読むべき本を3冊教えて欲しいと頼まれました。二人は全く異なる会社で、時間もずれていたのですが、一日に二度、同じ要望を受けるとは本当に驚きです。私は藤森隆郎先生と、森林ジャーナリストの田中敦夫氏、そして林材ライターの赤堀楠男氏の本を紹介しました。
後日、そのうちのお一人、I氏から連絡を頂いたのが、NPO法人設立のきっかけです。I氏は私を、当時盛んになりつつあった、新電力の販売事業に関わらないかと誘いました。
彼は有名企業で取締役をしていた経験があり、経済界に幅広い人脈を持っているようでした。そして新電力の会社で事業を始めるにあたり、他社との差別化を、社会課題の解決に結びつけて実現しようと考えていました。お客様がその会社と契約をすると、登録されている企業の中から、自分が応援したいと思う企業を選びます。すると、そのお客様が支払う月々の電気料金から、支援金が選んだ企業に支払われるというものでした。電力会社の切り替えは、例えコストが安くなるとしても、面倒だし不安もあるものです。そのような仕組みを前面に出すことで、社会に貢献する企業を応援できる、とアピールして契約者を増やそうと考えたのでしょう。介護や子育て支援などを行う事業者に加え、私の場合は国産材の利用促進を訴えます。1軒では数十円に過ぎませんが、契約件数が順調に伸びれば、100戸で数千円、1,000戸なら数万円になる計算です。入ってくる収入は少なくても、それだけの支援者を得られ、活動内容を発信できるメリットは大きいと考えました。登録企業の形態は、社団法人でも株式会社でも構わないとのことでしたが、社会貢献を訴えるなら、やはりNPO(特定非営利活動法人)にした方が良いと思い、設立を決めたのです。
I氏にそう告げると、設立には半年かかること、そのために必要な準備をするようにと、様々な資料作成を指導してくれました。I氏曰く、多くのNPOが失敗するのは、自分達の行動がどのような社会的インパクトを与えるのか、そのロジックが明確になっていないことに起因するというのです。私は毎夜、パソコンに向かい、日本の森林の置かれた状況と、それに対して自分が何をしたら、有効なインパクトを与えられるのかを考え抜きました。そこで思いついたのが、従来から温めていた、花粉症の軽減を訴えて都市に住む人の関心を引くという手法です。姑息なやり方と思われるかもしれませんが、私は真剣でした。環境問題に関心のある人は限られていて、森林が荒廃しているなどと訴えても、ほとんどの人は振り向きもしないでしょう。しかし、花粉症に悩む人は多く、5年後、10年後に軽減する見込みがあるなら、金銭を負担しても良いという人も確実にいると思ったのです。
そして、実際に花粉の飛散量を抑えるには、都市近郊を中心に、相当な量の森林の伐採・更新を行わなくてはなりません。樹種転換を促す、という言い方なら、理解を得やすいでしょう。私はロジックツリーと呼ばれる諸要素の関連図をひたすら作り続けました。
明日に続きます。
文月ブログ
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