文月ブログ

佐伯・耳川を訪ねる再造林ツアーを終えて(2)

再造林ツアーの二日目は、年間37万本を生産する苗木センターの見学から始まった。ここは廃校になった小学校の跡地を利用し、残された体育館の建物を資材置き場・作業場として活用している。作っているのは杉の挿し木苗で、宮崎で開発されたMスターコンテナという製法を採用している。自前での生産に取り組み始めたのは2012年だが、最初は失敗続きで、3年後に初出荷できたのはわずか1,000本に過ぎなかった。2018年にようやく軌道に乗り、毎年出荷量を増やして、今年は40万本に迫ろうとしている。
佐伯の特長の一つは、社会福祉施設と連携した障がい者への作業委託だ。ポリチレンの波型シートに培養土を入れて巻き固める作業を重い障がいのあるB型作業所の方達に、育った苗からシートを外し、基準に沿っているかをチェックして10本単位に束ね、山行き苗として成形する作業をA型作業所の方達にお願いし、互いに感謝される関係を築いている。人を大事にする眼差しに支えられた苗木達は、山の厳しい環境に適応する強さを備えていくだろうと思う。
次に向かったのは挿し木の穂を採る採穂園。ここでは1.5㏊の山腹に3,000本の母樹が植えられているが、多くの穂を採るために樹高を低くし下枝を茂らせているので、杉とは思えない樹形をしている。良い苗を作るためには穂の見極めが重要で、木質化していない柔らかい部分は使い物にならない。細くても枝としての強靭さを持つ部分を切り取らなくてはいけないそうだ。一本の母樹から取れる穂は500本程度。採取後は丸裸になったように見えるが、一年後には元のように繁ってまた採穂できるとのこと。組合では苗木生産者に採穂園の造成を促し、生産量の増加を目指している。上述した社会福祉施設も自ら土地を購入し、採穂からの一貫生産を検討していると聞く。タノアカ・姶良20号といった飫肥杉系の4種類の苗木は、先人達がこの土地に合い、生産性や色味も良いと選び抜いた品種だ。しかも小花粉なので、花粉症の私も安心して再造林を勧められるのが嬉しい。
佐伯の最後は再造林を終えた現場。造林班の人達は毎日場所を移動するので、今回は直接話を聞くことはできなかったが、佐伯の造林責任者が詳しく説明してくれた。シカ除けネットは2.2メートル間隔で支柱を立て、100ミリ目合の網をかけて80㎝を外側に垂らす、スカートと呼ばれる張り方をしている。これでシカの食害は大きく減ったそうだ。網の材質は防弾チョッキに使われるポリアミド製で、一般的なステン製の半分以下の重さ。価格は高いが、働く人の負担を考慮して採用しているとのこと。佐伯の山は傾斜が急な場所も多いが、スギはかかり木にならず、チェーンソーで伐ればそのまま下に落ちる。それを集めて造材するので比較的作業しやすい。曲がりの大きい根元の部分は2メートルの長さで切るというルールを設けているので、グラップルで掴んでバイオマス用に集荷するのが容易になる。最近は燃料が不足気味なせいで、以前は現場にまとめて置いていた枝葉も業者が回収するようになり、造林できる面積が増えているそうだ。熊本から参加した造林会社の方は、林地が綺麗に片付いていることに感心していた。伐採業者は造林の手間を考えて片付けをする、その習慣は、長年の粘り強い説得や、山主による人気投票(粗雑な仕事をする事業者は受注できなくなる)などの工夫によって作り上げられたものだ。
ここで佐伯の視察は終わり、参加した方々は口々に、佐伯広域森林組合への賞賛と感謝の言葉を口にしていた。単に規模が大きいから、地形に恵まれているからできるのだと考えては本質を見誤る。2009年に大型製材機を導入して以降、彼らは必死に目の前の課題に取り組み乗り越えてきた。それが風通しの良い組織風土を作り、市民に支持される環境につながったのだということを、多くの方が実感して下さったことと思う。
長くなったので第二回はここまでとし、次回は宮崎県に移動しての座学と視察についてお伝えする。
(続く)

 

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