日本の稲作の単位面積当たり収量は、減反政策が始まる前の1969年には世界第3位だったが、米国や中国にも追い越され、現在は16位と低迷しているそうだ。(日経経済教室「稲作農政の課題(下)」日本国際学園大学・荒幡克己教授)米価を維持するために総量を規制し続ける政策のもとで、生産性が向上しなかったのはある意味当然の帰結だと言える。しかし荒幡教授は、米は依然として日本人の主食である上、食量安全保障の観点からも、米の単位収量を上げて、余った農地を小麦や大豆など輸入に頼る作物に転換していくことが求められると述べている。農業従事者の高齢化や離農を、農地の集約化・機械化の好機と捉え、生産性向上に努めるべきという論旨には説得力がある。
今年の初秋には「令和の米騒動」が起きて、米が販売店の棚から一斉に姿を消した。原因は複数あるが、一つには昨夏の猛暑で米が白く濁り、一等米の比率が落ちたことにあると言われる。しかし今年は、昨年と同じような猛暑であったにもかかわらず、そのような事態は回避された。そこには、稲が暑さに負けないように、水や肥料の管理などを徹底する農業関係者の努力があったに違いない。品種・気候・土壌・水質、どれをとっても同じ場所は一つも無いはずだ。それぞれの地域ごとに、成功事例やそれまでの経験値から導き出した対策を伝え、農家も実践した結果なのだろう。これは実はすごい事なのではないかと私は思う。
一方の林業は、これまた生産性の低さは言わずもがな。間伐や再造林は補助金がなければ実施できない、産業未満の状態にある。そんな中でも、最先端の機械や技術を導入して理想的な経営モデルを構築できないかという林野庁の「新しい林業」事業が、2022年から今年にかけて、全国の12地域で実施されてきた。自分もその一部に関わり、先日行われた最終年度の進捗発表会に参加してきたが、正直に言えば「道半ば」という感想である。
林業は長い時間をかけて木を育てていくが、どの苗をどんな間隔で植え、いつ下刈りを行い、いつどの程度間伐するかなど、検証に時間のかかる行為の連続だ。そちらは先人達の功績を参考にしつつ、これからも続けていくしかないのだが、問題は資源調査・伐採・搬出・加工・販売といった、すぐに結果の出る作業分野でも中々生産性向上が図れないことだ。12グループの発表を聞いていても、この方式なら誰がやってもうまくいく、実際に経営が安定した、というレベルからはまだ遠いのが実情だと感じた。しかし、事業のとりまとめをしている林業機械化協会の方々は、各グループの報告の中から、この程度の規模、この条件下ならばこのスペックの機械の導入が有効といった最小公倍数を導き出し、経営のヒントをまとめようとされている。私もそれは大事だと思う。月並みかもしれないが、林業の生産性向上が中々進まない背景には、地形や気候、規模、樹種、業態、販路など変動要因の多さに対し、新しい技術やシステムに挑戦する人や組織の絶対数が不足しているという事実があるのではないだろうか。農業のように、暑熱対策が地域ごとの集合知として共有されるようになるには、多数のサンプルが不可欠だ。政府の予算には限りがあり、高価な機械を簡単に試すという訳にはいかない。しかし、民間資本と連携したり、お金をかけずにフリーソフトを改良したりしながら、より多くの事業者が新しい手法に挑戦するようになるために、「林業は日本の主力産業になる」という希望を、私は発信し続けたい。
文月ブログ
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