文月ブログ

山と建築の再会

昔、村の大工は山で自ら木を選び、伐り出した材で家を建てていた。戦後、木材が海の向こうから運ばれるようになり、大工さんと山の繋がりは切れてしまった。プレカットの普及で手刻みは廃れ、ビニールシートに覆われた現場では、大工さんが何をしているのか、一般の人の目に全く触れなくなった。戦争で伐り尽くされた山の資源はすっかり回復し、大きく育ったのに、使ってくれる人も、気にする人すらいない地域もある。そんな状況が少しずつ変わり始めた兆し、それを感じる出来事が二日続いた。

一つは山梨県丹波山村での村営住宅上棟。大工がいなくなって久しく、修理が必要なのに手を付けられていない家が目立つ村で、木造大型パネルにより、ほぼ二日で三棟が上棟された。今回は地元の材を構造に使うことはできなかったが、地域を管轄する森林組合の方は、朝早くから現場の作業に目を凝らしながら、次こそはと供給に意欲を見せていた。上棟の応援に駆け付けた大工の中には群馬県から来た人もいて、話を聞くと、自分達で地元の木を知ろうとする勉強会を立ち上げているらしい。人手を期待され、大型パネルという技術を自らが使いこなすための試行と併せて村に来た彼らは、大工がいなくなったら地域はどうなるのか、その現実を目に焼き付けたのではないかと思う。人が住み続けるために、住宅のメンテナンスと更新は絶対に必要で、彼らはそこに地元の材を活かす道を探ろうとしている。

もう一つは、静岡県の森林組合の組合長とお話したことだ。静岡は県を挙げてデジタル戦略を推し進め、精緻な森林情報を取得・解析し、それを森林クラウドとして関係者に提供している。しかし残念なことに、県の地籍調査の進捗率は25%、山林に限っては10%程度で、せっかくの情報を活かすことが難しい。この組合では、将来の維持管理に悩む森林所有者を救いたいと、組合員に声をかけ、細切れの筆界をまとめて、100㏊程度のまとまりにしていこうと動き出したところだそうだ。施業や森林経営計画のための集約化は、これまでも多くの組織が取り組んでいるが、それを超えた共同管理を目指しているように感じた。地籍調査を待っていたら100年かかっても無理、という状況で、大きなまとまりの中のお互いの持ち分のみを確認し合い、最適な施業をして得られる利益を分配する、そんな仕組みができれば良いと思う。その時には、0.5mメッシュの精細な地形図や資源情報、画像から読み取った作業道の入り方などを基に、そのまとまりの資産価値を算出し、投資を呼び込むシステムがあれば大いに役に立つだろう。

前日の日刊木材新聞に、ウッドステーション株式会社が住宅の一棟積算を含む情報処理の自動化にめどをつけたという記事が掲載された。この技術は、住宅産業ではなく山側が使いこなせば、森林の価値を上げることができる。そう伝えてお渡しした記事のコピーを、組合長は丁寧に折りたたんで胸のポケットにしまい、森林を未来世代に受け渡すためなら自分は何でもすると言われた。

大工が山に戻り、森林組合が建築の世界に足を踏み入れようとする、この挑戦は、松任谷由実が歌った「懐かしい未来」を、私達の前に拓いてくれるかもしれないと思う。

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