文月ブログ

森林添乗員が見る林業ICTの行方

2023年は、私達がずっとまともだと思っていたものの多くが虚像だと明らかになった年だ。ジャニーズ事務所や宝塚、ビッグモーターにダイハツ工業。問題が明るみに出ること自体は良いことで、会社はようやくこれまでのやり方が間違いだったと認めて方向転換できる。私が怖いと思ったのは、そういったビッグネームではなく、和歌山でトンネル工事のコンクリートの厚みが足りず、鉄骨の施工も不良で、全工事をやり直すというニュースだった。全く同じような不正が昨年長野県でも起きているのに、県の担当者は必要な検査をせず、現場責任者は事実を隠蔽して引き渡そうとしたらしい。ずっと真面目で優秀とされてきた日本人の職業倫理が押し潰されるほど、県も建設業者も現場の疲弊が限界を超えている。そういった事例が他にも沢山あるだろうと思うと背筋が寒くなる。
悪いと知っていても流れに逆らえない、それは一人一人が加害者になるという事だ。私自身、このままではいけないと思いながら立ち止まれなかった経験を、今も深く恥じている。社会が、会社が、政治が悪いと誰かのせいにしていたら何も変わらない。ようやく流れが弱まり、自分の行きたい方向へ舵を切れる気配がしてきたのだから、今こそ流れに棹をさそう。
ウッドステーションの塩地氏は、「人手不足は悲劇ではない。人が邪魔をしている。」と言い切る。確かに人が余っていたデフレの時代、働く人が幸福だったかと言えば決してそんなことは無い。技術革新を邪魔しているのは人であり、人に頼った仕組みの破綻が先述したような不正を生む。余裕の無い現場、課題から逃げる中間管理職、トップの保身が、その悪循環を強固にしている。
これまでの常識を疑おう。例えば森林資源調査や管理に使用する機器やソフトについて、先行する大手メーカーは全国の多数の森林組合や林業会社が導入しているとHPで表明している。しかし私の聞き取り調査では、それを使い倒して大いに役立てているという組織はほんのわずかで、投資に値する技術レベルではないと明言する人にも複数出会った。先発のメーカーが競い合い、資金と技術を投じて開発されたものだから、うまく使えないのは自分達のせい、それ以上を望むのは無理だという諦めも感じた。果たして本当にそうなのだろうか?メーカーは、既にある技術だからこれを使えと、林業サイドに押し付けていないだろうか。そして林業側も、ユーザーオリエンテッドなシステムを真剣に望んできたのだろうか。
林業界は元々人がいない、考えようによっては、それは大きな可能性を秘めている。古色蒼然とした既得権者が幅をきかせる部分はあっても、新規参入が妨げられるほどの競争は少ない。そして実際に、他業界から、あるいは役所務めから、新たに林業を志す若者が確実にいる。彼らが自らの試みとその成果について情報を共有し、イノベーションを起こし続けていくことは、日本の林業の新陳代謝を促す。リプレースが難しい既存のシステムが存在しないことは、デジタル化を進める上でのプラス要素とも言える。アフリカで、固定電話による通信網を飛ばしていきなりスマホが普及したように、FAXよりスマホを使う方が便利で儲かる仕組みを作ればいい。
林業ICTに関する私の旅はまだ始まったばかりだが、心から望むこと、自分独りでも非力でも諦めず、求めるものに近づく努力を惜しまないことを実践したい。現場で手足を動かしながら、頭をフル回転させている人達、彼らが使いこなせる技術の具体例を探して。

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