「人手不足は悲劇ではなくビッグチャンス、なぜなら人が邪魔していたからだ。」先日行われたある会合で聞いた言葉だ。前後の文脈から言葉を補うと、「人」を安く使えたことが技術革新を邪魔していたという意味だと思われる。出生率の低下、将来の人口減少は20年以上前から予想されていたのに、問題が深刻になるまで何もせず、今頃になって焦る多くの経営者に聞かせたいものだ。
私自身は運よく大企業に定年まで勤めることができたけれど、途中から非正規労働者の割合が確実に増えていくこと、それを派遣という形で都合良く利用することにどこか不安を感じてきた。しかしそれを裏付ける若者達の怨嗟の声は、ほんの数年前まで新聞や公共放送ではほとんど報道されなかったと記憶している。ツイッター(今のX)には、どんなに働いても給与が上がることはなく、車も女性との交際も贅沢品、まして結婚や住宅購入など夢でしかないという非正規労働者やフリーランスの本音が溢れていた。夜勤明けで疲れ切った男性が、勝ち組の妊婦に席を譲りたくないという話には多くの賛同が集まり、彼らの心がいかに荒(すさ)み、絶望の中で生きているのかを知ってゾッとしたものだ。何も失うものが無い「無敵の人」がいずれ多くの犯罪を起こすだろうという予言は、列車内での無差別殺傷事件などで既に一部現実になっている。
また、働き方改革を、仕事量を減らさずに残業を減らせと部下に命じるだけで良いと思っている無能な経営者が、何万人という働き手の心と体を蝕んでいるのを見聞きすると、腹が立って仕方がない。いや経営者の立場から引きずり下ろし、私財で償わせるべきだと思う。
一方、批判覚悟で言えば、搾取される労働者の側にも、付け入られる隙があったのかもしれない。私自身の経験を省みると、それは「いい人でいたい」という感情だ。「人に迷惑をかける」「悪く思われたくない」という思いは簡単に利用される。おかしいと思ったら、間違っても耐え続けてはいけない。「自分さえ我慢すれば」は必ず次の犠牲者を生み出す。利用された方が悪いという意味ではなく、あなたが我慢する必要は全くないのだから、早く逃げろと言いたいのだ。職場環境や待遇に不満を持つ労働者は、さっさと条件の良い他社、もしくは他業界に移ればいい。人手不足はそれを可能にしたのだから。
実際に期待できることは、人を安く使って利益をあげてきた会社や経営者が退場するように、いち早くデジタル化・無人化に成功した企業が市場を取っていくことだ。冒頭の言葉を発した経営者のように、人に頼るなという人間が、最も人を大事にしているのではないか、私はそんな気がしてならない。
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